私たちは種族の壁を越えて愛し合う。~婚約破棄され掴んだ幸福~
「貴様のような野蛮な血筋の女を妻にするのはやはり嫌だ! よって、婚約は破棄とする!」
私は人間ではない。
いや、人間に似た容姿だし二足歩行なのだけれど。
ただ、厳密に言うと、純粋な人間ではないのだ。
獣人族というやつである。
二足歩行をするし、身体つきもおおよそ人間に近い。が、尾があったり皮膚からふわふわの毛が生えていたりと、純粋な人間とは違っている部分も少なくはない。
私の家は祖父の代で人間の社会に入ることを許された。
一応これでも法的には人間として扱われている。
だが、獣人族を嫌う者も少なくはなくて。
婚約者アルフルもその一人だったようだ。
「いいな、もうこれで終わりだ。貴様はさっさと消えろ。貴様のような野蛮な血筋の女は毎日勝手にバーベキューでもしていればいいんだ。……じゃあな」
こちらにもプライドというものがある。
そこまで言われて彼にすがりつく気はない。
「そうですね。では、さようなら」
アルフルとはこれで終わりだ。
◆
こんな調子で、獣人族というのは何かと損である。
今の世では一応でも人間と同様の存在として扱われているため、表立って虐められたり暴行されたりすることはあまりない。ここ十年ほどでもかなり減っている。が、良く思わない人は今もそれほど減ってはいない。裏でさりげなく嫌がらせをしてくるような人だっている。
「これからどうしようかな……」
ま、気にしないことにしよう。
取り敢えず山菜取りに行くことにした。
そこで出会うこととなる。
未来の夫と。
山菜取りのため山に入ったところ、足を滑らせて谷のようになっているところに転落している男性を発見。水玉のほっかむりとスーツという少々珍しい服装であったが、だからといって放っておくこともできず、救助に向かった。
「大丈夫ですか?」
「あ……あぁはい、すみませんお嬢さん」
「手を貸します。歩けます?」
「……まずは立ってみます」
彼は獣人族である私を嫌がりはしなかった。
私の身体にも迷わず触れた。
「ではゆっくり行きましょう」
「ありがとうお嬢さん」
そうして彼は助かった。
後日。
お礼を言いたいとのことで、彼の家へ呼ばれた。
「先日は助けていただき……ありがとうございました」
「いえ」
「しかし素晴らしい運動能力でしたね、あの険しい坂道をどうもなくのぼりきるなんて」
「……獣人族ですので」
試してみる。
しかし彼は微笑んだ。
「本当に助かりました! 獣人族、素晴らしい運動能力の持ち主ですね!」
彼は無垢だった。
◆
そして私は彼と結婚した。
山で出会い幕開けた物語は、これからも、幸せの色をはらみながら続いてゆく。
ちなみに。
アルフルはというと、私との婚約を破棄した直後に知り合った金髪の可愛い女性と結婚したそうだが、夫婦になるや否や女性から虐められるようになったそうだ。
で、ある時、我慢しきれず女性を一発殴ってしまって。
それによって牢屋に入れられることとなってしまったらしい。
◆終わり◆