婚約者がいる身だというのに他の女と遊びまくるような人とは生涯を共になどできません!
腕を絡めて恥ずかしげもなく街中を歩く男女が一組。
二人は愛の絶頂にいるような雰囲気をまとっている。
「ねぇねぇ、今日も楽しまない~?」
「もちろん。もちろんだよ。いいよ、楽しもう」
「いい宿泊所とれたの~」
「お、ありがと!」
だが、その男のほうというのは、私の婚約者である。
私の婚約者であるマディはとにかく女好き。そのうちぼんぼん子どもができてしまいそうな生活をしている。正直、私としては、生涯を共にするのが一番嫌なタイプだ。
今日という今日はもう許さない。
ここですべてを終わらせる。
「あら奇遇ね。マディ、こんなところで会うなんて」
宿泊所に向けて歩き出していた男女の前に姿を現す。
「なっ……ど、どうして」
「女とは会っていない、なんて、やーっぱり嘘だったのね」
マディはこういう展開を想定していなかったようで青ざめている。
「ま、いいわ。これではっきりしたもの。貴方が嘘つきだ、って」
ふふ、と、笑みを浮かべてやる。
「誤解だよ! 違うんだ!」
「そうかしら?」
「あ、あぁ、そう、そうなんだ。これは偶然で、たまたまちょっと休もうってことになっただけで……」
「あんないかがわしい宿泊所に? 昼間から?」
段々面白くなってきた。
「そういうことなら、あの宿泊所には行かない方がいいわよ? だってー……そういう健全な休憩所じゃないから。そんなことも知らないの?」
「ああそうだよ! 知らなかったんだ!」
「それにしては楽しむ気満々だったけれど?」
「うっ……」
私とマディが話している隙をついて逃げようとする女性。
その手首を掴む。
「貴女にも少しお話があるのよね。……よろしくて?」
「わ、わたしはっ……何も、そのような悪いことは……」
女性は弱々しいふりをする。
でも実際はそうではないのだろう。
そんな弱々しい女性なのなら、異性といちゃつきながら堂々と道を歩けるはずがない。腕を絡めて、なんてことになったら、もう少し照れるだろう。
「私はマディの婚約者なの」
「わたし、知りませんでした……! マディ様に婚約者がいるなんてっ……!」
「他人の男に手を出さない方がいいってご存じ?」
「は、はい! それは! もちろん、です!」
これまでもマディにはこういうことを何度もやられてきた。
もはや許せる要素はない。
一度や二度ではないのだから。
その日、私は二人を連れて実家へ帰り、親に事情を説明した。そしてマディの親に連絡してもらって、皆で話し合うこととなった。マディの親は案外すんなり受け入れ対応してくれた。
「マディさんはこの女性と街中を腕を絡めつつ歩いており、さらに、ああいう宿泊所に入ろうとしていたのです。それに、今日も、と言っていました。なので、これまでにもそういうことをしていたのでしょう」
私はもうマディを信頼できない。
彼はきっと何度でも裏切る。
「私は彼とは生きてゆけません。これまでのこともありますし。よって、婚約は破棄とさせていただきます」
こうして私はマディと離れることを決意した。
マディとの婚約は破棄となった。
手続きは親の協力もあって順調に進んで。
慰謝料も取ることができた。
もちろん、マディのみではなく、相手の女性からも。
不愉快な思いをさせられたことがお金で消えるというわけではないけれど、何もないよりかは少しくらいは慰めにもなるものだ。
「父さん、母さん、ごめん。あんなことになってしまって」
おおよそ落ち着いてから、親には謝罪した。
色々ややこしいことをさせてしまった。
近所の人の噂話にもなってしまった。
でも二人は怒らない。
「いいのよ。貴女は悪くないわ、我慢もしてきたのだし。それに、あんな人のところに娘をやるのは、母親として嫌なことだわ。わたしまでもやもやしちゃうもの」
「そうだ! 俺だって、娘をああいう男に渡すのは辛い! そんなことにならなくて良かった!」
二人はいつも私の味方をしてくれる。
とても頼もしい人たちだ。
◆
何度か一年が繰り返して過ぎ、私は、本の仕入れ業を営む男性と結婚した。
今は彼のもと穏やかに暮らしている。
子どもも二人持つことができ、育児やら何やらに忙しくしているうちに、あっという間に時は過ぎた。
そういえば最近親からマディに関する話を聞いたのだが。
あの婚約破棄の後、女性はマディに捨てられたらしい。
何でも、マディが「君が上手くやってくれれば良かったのに!」と怒り出し、二度と会わないと宣言したそうなのだ。
そうして二人は終わる。
慰謝料を払わされることとなってしまったうえマディからも切り落とされた女性は、心の調子を悪くし医師に相談するもおかしな薬を処方されたことで寝たきりに近い状態になり、やがて死に至ったそうだ。
一方マディはというと、手を出した女性の中に過激派組織のお偉いさんの愛人がいたことで過激派組織に目をつけられ、ある時自宅にて暗殺されたらしい。
◆終わり◆