婚約破棄とでも何とでも言ってれば? あたし、もっといい相手とくっつきますから。
あたしには婚約者がいる。
名はオーズ。
学園時代、彼があたしとくっつくことを望み彼の親があたしの親に頼み込んだことで、この婚約が成立した。
だが、最近になって状況は一変。
オーズの職場の女性らしいのだが、彼に近づいてくる女性が出現したのだ。
その女性アーネットは、オーズに婚約者がいることを知っている。が、だからこそ燃えるというものなのか、婚約者の存在などお構いなしにオーズにすり寄り甘い言葉をかけ続けた。
その結果。
オーズはまんまと罠にはまってしまった。
ここのところ、オーズはいつもアーネットの話ばかりする。彼女のことを隠そうとはしていない。だが、あまりにも嬉しそうに「可愛い女性でさ~、も~、ホント好きになっちゃいそうなんだよね~」とか「惚れるわ~」とか「いっつもかっこいいって言ってくれるんだよ~」とか言ってくるものだから、呆れてしまった。
隠すより良いのかもしれないけれど。
でも普通婚約者に別の女の話をするか?
かっこいいと言ってもらったことを自慢したりするものなのか?
そんな疑問を抱いていた、ある日。
「ごめんね、急に」
「いいえ」
オーズに呼び出された。
場所は彼の家の近くにある公園。
「ところで、どうして女性もいるのかしら」
オーズはなぜか女性を連れてきていた。
「実は……君との婚約を破棄することにしたんだ」
そう述べる彼は真面目な顔をしていた。
「急すぎない?」
「うん。でも……もう、早く、君と離れたいんだ。で、この女性と結婚したいんだ」
彼は何の躊躇いもなくそう発した。
「……そう、分かったわ」
もはや彼の心を取り戻すことはできないのだろう。
「あたし、慰謝料は請求するわよ。躊躇なく、ね」
「払うよ」
「分かった。ならいいわ。……じゃあね」
オーズからはしっかり慰謝料を払ってもらった。
もちろんアーネットからも取ることを望んだ。
彼女は最初のらりくらり逃れようとしていたが、親の知り合いにそういうことに詳しい人がいて協力してもらえたため、最終的にはほぼ強制的に払わせることができた。
これで彼らとの関わりはおしまい。
もう接触することはない。
それに、あたし自身、これ以上接触しないことを望んでいる。
嫌な思い出となってしまったことは残念だけれど、過去のことばかり見つめていても何も生まれはしない。
多少のもやもや感はあるけれど。
進んでいこうと思う。
◆
早いもので、あの婚約破棄から三年が経った。
あの一件の直後、父親の紹介で会ってみることになった青年と気が合い、あたしは彼と結婚した。
彼、今の夫は、権力ある家の息子である。
そのため不安もあった。
ややこしいことに巻き込まれるのでは、と。
でもそんなことはなく。
今も幸せに暮らせている。
あたしの今のマイブームはハーブ栽培。
忙しいが楽しい。
一方、オーズらはというと、結婚しようとするも揉め事になってしまったそうで……結局、正式にくっつくことはできなかったらしい。
オーズはあたしを勝手に切り捨てたことで親と険悪になり家出。
途中、同じく家出してきたアーネットと合流するが、夜の街を歩いている時に一人の男性に声をかけられて……ついていくと、そこは違法行為の巣であった。
オーズは薬物を投与されたうえ所持金すべてを奪われ、アーネットは娼婦になることを強制され、二人は離れ離れになってしまったらしい。
◆終わり◆