この脚のせいで婚約を破棄されてしまいました。~悲しみを越えた先に幸せはありました~
私はダイアンという男性と婚約した。
もともと恋愛していたわけではなく婚約ありきの出会いだったけれど、それでもお互い楽しく過ごせていたし、一緒にいて楽しいねと語らうこともあった。
しかし。
私のこの脚のせいで関係が壊れた。
「え、なにその脚。だっさ。太いし臭そう」
ある夜、少し良い雰囲気になって向こうがいちゃつこうとしてきたのだが、その時に彼は私の脚を見た。
で、そう言ったのだ。
私の脚は他人より太めだ。これは太っているからではない、他は痩せていてもそこは痩せられないのだ。元々こういう脚なのだ。
「ムリ、婚約は破棄する」
彼は急にそんなことを言った。
私は何とか説得しようとしたけれど、彼は脚に対する暴言を吐くばかり。それどころか、私のことまで傷つけるようなことを言い出した。そして、泣きそうになってしまった私を放置し、部屋から出ていった。
確かに美脚ではないけれど。
脚くらいでこんなことになるとは思わなかった。
私はしばらくその場から動けなかった。
涙が止まらない。
◆
溜め息ばかりが出る。
あれから一週間になるが、今も、あの夜のダイアンの言葉たちが私を繰り返し傷つける。
今は実家へ戻ってゆっくり過ごせている。
けれども心が晴れることはなくて。
そんな、ある日。
「あの! すみません!」
散歩中に少年に声をかけられた。
「お姉さん、素晴らしい脚してるっすね!」
え、なに?
いきなり何なの?
「えっと……」
「実はですね、昔からお姉さんに憧れてたんすよ!」
「そう、なんですか」
「はい! で、今日めでたく十八歳になったので! 声をかけてみることにしました!」
十八歳になった、と言っているのは、成人したという意味だろう。
この国では十八歳で成人となる。
結婚や契約など色々なことができるようになる。
しかし、思ったより年齢を重ねていたようだ。
もう少し子どもに見える。
「そうなんですね……」
「あ、いきなり怪しいですよね!? すみません、気を遣うのが下手で」
「いえ、いいんです。でも……脚のことは、あまり触れないでください」
すると彼は目を開いて「どうしてっすかぁ!?」と叫んだ。
「こんないい脚なのに! 素晴らしい好みぴったりのお脚だというのに! 触れるな、なんて、もはや拷問でしかないっすよ!」
どうやら彼は私の脚を気に入ってくれているようだ。
「あのっ、お話だけでも、どうですかっ!?」
「それは良いですよ」
「あ、あざっす! ありがてーっす!」
◆
あれから二年、私は、脚を褒めてくれた彼と結ばれた。
出会った時にはようやく成人の十八歳だった彼も今では二十歳となり、容姿も徐々に大人びてきた。
今は彼といられて嬉しい。
嫌なことがあっても、彼の顔を見れば乗り越えられる。
ちなみにかつて私を切り捨てたダイアンは、あの後なかなか婚約話がまとまらず、焦った親に強制的に知らない女性と婚約させられたらしい。
だがその女性は貰い手がなく実の親も困っている女性だったらしい。
脚を含む全身が太めかつ不潔であり、さらに性格も極悪でストーカー気質。
ダイアンは絶望し、婚約の数日後自ら命を絶ったそうだ。
◆終わり◆




