急に婚約破棄されたので、ペットのモンスターのところに帰ってお世話を再開しようと思ったのですが……!?
「モモン! お前とは今日で終わりだ!」
赤毛の婚約者バルカスは叫ぶ。
「婚約は破棄とする!!」
声が大きすぎて窓枠が震えていた。
ある意味驚きだ。
「そもそもモンスター好きの女なんぞを相手にしたのが間違いだった。たとえ裕福な家の娘だとしても、だ。モンスター好きなんぞ人類の敵でしかない。そのような人類に対する裏切りを平然と行うようなやつを家に受け入れるべきではなかった。あぁ、早く気づいて良かった。危うく我が家が穢されるところだった」
そう、私はモンスターを飼っている。
親がモンスター好きだったこともあって私は幼い頃からモンスターに慣れ親しんできた。だからモンスターを可愛がっているし、世話をすることも苦痛ではない。そのため実家にはペットのモンスターが数匹いるのだ。
「ほら! さっさと! 出ていけ!」
こうして私は婚約破棄された。
取り敢えず実家へ帰ろう。
先のことは後で考える。
今はとにかく家に帰って早くペットであるモンスターのお世話をしたい。
ここ数日親に任せてしまっていたが……大丈夫だろうか、皆元気にしているだろうか。
心配なので急いで家へ帰った。
「あらモモン、帰ってきたの」
「婚約破棄されたの!」
「えっ……」
青ざめ瞳を震わせる母親。
「だからまたここで暮らすね!」
「そ、そう……いいわよ」
彼女は少し気を遣っているようだった。
べつにいいのに。
配慮しなくて構わないのに。
でも、優しさは受け取った。
「そういえば、この前、モンスター管理協会の新会長さんがいらしたの。モモンに会いたいんですって。もしよかったら、会ってみる?」
お茶を出してくれた母親がそんなことを言ってきた。
「そうなの?」
「ええ。わざわざ挨拶に来てくださったのよ」
「そう……」
「あ、嫌なら無理しなくていいけれど」
「ううん! 気になるから会ってみる!」
◆
「初めまして、モンモンです。貴女がモモンさんですね」
「はい」
モンスター管理協会の新会長はモンモンという名前だった。
私と若干名前が似ている。
親近感。
「モモンさん、よければ、管理協会に正式加入しませんか?」
「え」
「モンスター飼育をなさっているそうですね」
「あ、はい、それはしています」
モンモンはすらりとした男性で、髪は黒く、眼鏡をかけていた。
「どうですか? 入りません?」
「……えっと、その、いきなりで。……少し考えてみたいです」
するとモンモンは笑う。
「ありがとうございます……! 考えていただけるだけでもありがたいです」
その日はそれで終わった。
◆
後日、私は、モンスター管理協会に加入することを決めた。
モンスター好きで婚約破棄されたくらいだ、もういっそモンスター好きで通そうと思う。それが私のアイデンティティだし、それによる損があるならそれによる得があっても良いだろう。
「モンモンさん、決めました。私、加入します」
「ありがとうございます……!」
モンスターを研究するということは、世のためにもなる。
◆
あれから数年。
私は色々あってモンモンと結ばれた。
今は会長の妻として副会長の座に就いている。
けれども威張ったりはしない。
どこまでも謙虚に。
たとえ偉くなっても、ふんぞり返っていては情けないばかりだから。
そういえば。
元婚約者のバルカスは、草鶴のモンスターの群れに襲われて重い傷を負い、その後治療のかいなく亡くなってしまったそうだ。
草鶴のモンスターは、群れで暮らし、なわばり意識が強い。
そのため、なわばりであるところに人間が入っていくのは危険な行為とされている。
どうしても入らなくてはならない場合は複数で、ということになっている。
バルカスの場合、何も知らずなわばりに入ってしまったのだろう。
無知とは恐ろしい。
◆終わり◆