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婚約者を妹に奪われもやもやするので魔法を使って発散していたところ、とある青年の目にとまり、人生は思わぬ方向へ進んでいくこととなりました。

 その日、私は妹であるカルタロッタから告げられた。


「お姉さま! ウルリフ様はいただきますわよ!」


 最初はよく意味が理解できず戸惑っていたのだが、少しして気づく。私の婚約者を貰うと言っているのだと。ウルリフというのは私の婚約者である男性の名だ。


「え。待って、どういう意味……」

「まだ知りませんの? 相変わらずトッロイですわね」

「何の話なの?」

「だ! か! ら! ウルリフ様はわたくしの婚約者になったんですわよ!」


 これには言葉を失った。


 この婚約は彼が望んだものだった。彼が強く望み、それに応える形で、私はそれを受け入れたのだ。


 なのに彼はカルタロッタに乗り換えたというのか?


「ウルリフ様、トッロイ貴女よりわたくしの方が好きだそうですわよ」

「ええ……」

「夢みていたでしょうに、残念でしたわね」


 カルタロッタの西洋人形のような顔が黒い笑みに濡れる。


「では、わたくしはこれで。これからウルリフ様とデートがありますので」


 彼女は流れるような足取りで去っていく。


 その後私は親のところへ行きその話が事実なのかどうかを確認したのだが……事実だった。


 あぁ、なんてこと。

 どうしてこんなことになってしまったのだろう。


 私は一度ウルリフから話を聞こうと思ったのだが、それは許されなかった。丁寧に頼むも拒否されてしまった。ウルリフによれば、話すことはない、とのことだ。


 まったくもって意味が分からない。

 ただもやもやだけが胸に残る。

 胸を満たすこれは一体どうすれば良いのか。


 その時ふと思い立ち、私は、裏庭の倉庫へ向かった。


 小さな小屋。ここは、よそには倉庫ということにしているが、実は魔法練習場だ。魔法を使っても壁や天井が壊れないよう改良された建物となっている。


 ここでなら魔法を使っても大丈夫だろう。


 私はもやもやを晴らすために魔法を使うことにした。

 これは一種の発散だ。

 人に当たり散らすよりかはましだろう。


 その日、私は、数時間にわたってその建物にこもった。で、幼い頃から使えた魔法を連続で発動し、もやもややストレスを発散した。


 終われば、少し爽やかな気分。


 だが詰めが甘かった。


 通りすがりの青年に私が魔法を使えることを知られてしまって……。



 ◆



「娘さん、魔法が使えるのですよね」

「いえ! そのようなことは!」

「ですが、小屋から出てくるところを拝見しました。間違いなく魔法を使った後でしたよ」

「か、かかか、勘違いでは?」

「長年魔法の指導をしてきましたので、間違いありません」


 この前のストレス発散、ウィーグと名乗る青年に見られてしまっていた。今は父親が必死になって隠そうとしているところだ。なんせこれまで私の魔法のことは隠し続けてきたから。でも多分隠し通すことはできないだろう。そもそも、父親は嘘が下手過ぎる。嘘を言っていると誰が見ても分かるような顔をしてしまっている時点で敗けだ。


 そろそろ諦めようか。


 魔法の使用は違法ではない。

 処刑はされないだろう。


「ウィーグ様。申し訳ありません、魔法の件は仰る通りです」


 隠れていろと言われたが出ていくことにした。


 甘かったのは私だ。

 私が逃げていることはできない。


「貴女は……!」

「魔法を使っていたのは私です」

「やはりそうでしたか」


 おろおろする父親へ視線を向ける。


「庇ってくれてありがとうお父様。でも私、もう隠れてはいられません。ここまできたら本当のことを話そうと思うのです」

「だが……」

「大丈夫です、お父様」


 私はウィーグに目をやる。


「それで、ご用は何でしょうか?」


 ……ウィーグの目的は『勧誘』だった。


 彼が持つ私設魔法団へ入らないかという話だったのだ。


 聞くに特別怪しい集団というわけではなさそうで。

 どうやら国王軍の一部らしい。


「そうですね、興味があります」

「ありがとうございます!」


 そうして私は彼についていくことを決めた。


 婚約は破棄となったしすることもない。

 ならば家でぼんやりしているより動いている方が良いだろう。


 こうして私の人生は動き出す。



 ◆



 あれから十年、私は今もウィーグの私設魔法団にて働いている。


 団員には男性が多い。それは入った当初から変わっていない。が、そんな空気にももう慣れて。男臭い空間でもどうということなく生きていられるようになった。


 また、ウィーグとは今や戦友である。


 お互い色々助け合ってきた。


 こんな血生臭い人生が待っているとは思わなかったけれど、これはこれで良かったのかもしれない。妹に絡まれつつ生きているくらいなら、いっそ家から出て戦いに生きる方が生活の質は高まる気がする。


 で、妹のカルタロッタはというと、ウルリフと結婚するも残念なことになったようだ。


 ウルリフは非常に女好きで、女性に少し声をかけられるとすぐについていってしまうような気質だったらしく、妻がいる身でも幾人もの女性と深い仲になっていたそう。

 浮気に耐えられなくなったカルタロッタが「浮気はやめてほしい」と言うと、ウルリフは激怒。しかも「人気なんだから仕方ないだろ!」などと逆にきれる始末。

 さらにはカルタロッタを自室へ呼び出して手を出すようになっていって。


 カルタロッタが彼のもとから実家へ逃げ帰ったことから判明したそうだ。


 その後カルタロッタは男性不信になってしまったらしく、今は男性とは一切会話できない状態らしい。


 一方ウルリフはというと、カルタロッタからの離婚希望は拒否し続けていたようだが、そんな風にしているうちに深い仲の女性のうちの一人によって殺害されてしまった。


「アタシだけが大事って言っていたのに、妻がいた。許せない。だから終わらせることにした」


 それが、ウルリフを殺めた女性の主張だったそうだ。



◆終わり◆

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