貴方は女性というものに夢をみすぎなのですよ。~婚約破棄したいならそれはどうぞご自由に~
私の婚約者である彼ルーク・エバモは領地持ちの家の一人息子。
息子大好きな母親に大事に大事にされかっこいいと褒められて育ったために、女性というものに対して夢をみすぎている部分がある。
だからこれも定めのようなものだったのかもしれない。
「キミとの婚約は破棄することにしたよ」
ルークはある日急にそう告げてきた。
「婚約破棄? 本気なのですか」
「もちろん本気だよ」
嘘、ではないのだろう。
彼が本気で言っているということは分かる。彼はわざわざ複雑な罠を張り巡らせるような気質の人物ではないから。ある意味純粋過ぎるとも取れる彼のことだ、思ったことをそのまま口にしているのだろう。そこは私でも察することができる。
「何か理由が?」
「キミが外れ女性だったからだよ」
「外れ?」
「分からないなら言ってあげるよ。キミは優しくない、女性なのにちっとも優しくないし、言うことも聞いてくれない。だから外れなんだ」
正気か?
よくそこまで言えるな。
そう思ってしまう部分がある。
「女性というのは、やはり、もっと聖母のようでなければね」
彼の理想の女性像。
それは彼に言いなりの奴隷のような存在。
つまり、都合の良い女でなければならないということ。
私にそんな役が務まるはずもない。
「いつも柔らかく微笑んでいて、ずっと隣の少し後ろにいて、温かく接してくれる、そういう女性が理想的な女性だよ。もちろん、夫に意見するなんてあり得ない。夫の言うことはすべて聞き、理解を示して、それがどのような内容であっても頷き受け入れる。指示にはもちろん従う。それも速やかに。そういう女性でなければ外れだよ」
彼は独自の理論を展開する。
しかしそれは夢物語でしかない。
現実にそのような都合の良い女性はいない、か、いても稀だろう。
彼に気に入られることにかなりの益があると考えている人ならそんな風に寄ってきてくれる人もいるかもしれないが……いずれにせよそれでは健全な関係とは言えない。
それは利用されているだけのこと。
「分かりました。それでは私はもう去ることにしますね」
「そうしてほしいな」
「残念です。では……これにて、さようなら」
軽く一礼し、彼の前から去る。
言いなりの奴隷のようになることを求められるなら、こうなったのも定めというもの。今でなかったとしても、いずれ関係は壊れただろう。どのみち壊れるというなら早いうちの方が良い。後からだとさらにややこしい。
◆
あれから数年、私はルークとは違う男性と結婚し、今はとても幸せに暮らしている。
色々あったが幸せを掴むことはできた。
皆から憧れられるような幸福の形ではないかもしれないが、個人的には現状に満足している。
一方ルークはというと、あの後別の女性と婚約したそうだが、ルークの母親が彼女を虐めるようになったことでおかしな関係性になってしまったらしい。
私は特に虐められはしなかったがラッキーだったのか……。
それはさておき。
母親の行動でその女性との関係が終わってしまった直後、彼は私のところへ来た。
その時は一応まだ結婚していなかった時だが。
彼は「ママがキミならいいって言うんだ、だから……仕方ないから、キミとやり直すよ」と当たり前のように言ってきた。
私ははっきりと断った。
それでも粘られたので、最終的には、結婚予定だった彼に出てきてもらって追い払ってもらった。
その後彼と直接会うことはなかったのだが、彼はその後しばらくして自ら命を絶ったらしい。
書き置きには『相応しい女性のいない外れ世界とはお別れするよ』と書いてあったそうだ。
◆終わり◆