婚約破棄された友人が私の家へ駆け込んできました。~そこから始まるのんびりライフ~
「マリア……ごめん、急に……」
その日は雨降りだった。
友人ルルカが突然訪ねてきた。
雨と涙で水浸しになりながら。
何事かと思い戸惑っていると。
「婚約、破棄……されて……それで……ごめ、ん」
「待って、取り敢えず入って」
ルルカとは学園時代の友人だ。私にとっては初めてできた友人らしい友人だった。私はやや地味な女だが、彼女は明るく綺麗な心を持っていた。で、地味な私にも躊躇うことなく声をかけて関わってくれたのだ。
彼女にはいつも助けてもらった。
だからお返しがしたい。
彼女がそれを望むなら、私は何でもする。
◆
「そんなことがあったの……」
ルルカから話を聞いて言葉を失いそうになってしまった。
というのも、ルルカは婚約者がいたのだが、その婚約者が他の女と浮気していたそうなのだ。で、浮気相手の女に子どもができたということで、ルルカは婚約破棄されてしまったそうである。つまり、子がいなかったルルカは切り捨てられてしまったのだ。
「それは酷いわ、許せない」
「マリア……ありがとう。そう言ってもらえるとちょっとは救われる」
ルルカは見るからに元気がない。
「あ、そうだ。ホットミルク持ってくるから、待っていて」
ふと思い出した。
確か前にここへ遊びに来た時、彼女は、私が作るホットミルクを気に入って飲んでいた。
「……ごめんね、色々」
「いいのいいの! すぐ持ってくるからね!」
ホットミルクを作りながら、もやもやする。
どうしてルルカみたいな良い娘がそんな目に遭わなくてはならないのか、と。
それからルルカはしばらくこの家にいることになった。
婚約破棄されたことを親に話すのが怖いらしい。
親から何を言われるか分からないからだとか。
取り敢えず、私は、ルルカを励まそうと思う。
彼女からたくさんの楽しさを貰った。
だから今はお返しする時だ。
◆
あれから一ヶ月。
ルルカは段々元気になってきた。
「本当にありがとう……迷惑かけてごめんねマリア」
「ううん!」
「……本当に、本当に……ありがとう」
先日手に入れた情報。
そろそろ彼女に伝えても良いかもしれない。
「ねえルルカ。ルルカの婚約者だった人の話、聞いた?」
「え、聞いてない」
聞きたくないと言ったらやめようと思っていたのだが、ルルカは興味ありげな顔をしていた。
これなら話しても良さそうだ。
「子どもができた女の人と上手くいかなくて別れたんだって」
「え……そうなんだ」
「また他の女の人と遊んでたんだって」
「……そっかぁ、懲りないなぁ」
彼女はソファに座ったまま苦笑する。
「お金も取られて、今は恥をかきながら生きているみたいね」
「そう……」
「こんなこと言うと失礼かもしれないけれど、私は良かったと思う」
「え?」
「ルルカみたいな素敵な女性は、浮気男には相応しくないと思うの」
これは本心だ。
「だからさ、これからここで穏やかに暮らそうよ」
迷ったがそこまで言えた。
するとルルカは遠慮がちに頷く。
「大丈夫そうなのなら……うん、ぜひ」
こうして私はルルカと暮らせることとなった。
のんびりライフの始まりだ。
◆終わり◆