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国は滅び婚約も何もかも失った私は魔族の王に差し出されることとなったのですが、意外な展開が待っていました。 (後編)

 私は彼の妻になることを選んだ。


 今は亡き両親はいつも「あなたが進みたい道を行きなさい」と自由を尊重してくれていた。

 結婚相手が魔族の王だとしても怒りはしないだろう。

 姫であればさすがにそこまでの自由はないかもしれないが、姫でなくなった今の私なら魔族の王と共に行く道も選べる。


 そんな忙しい日々の中、私は、自国が婚約者にはめられたことを話した。


「私は……彼だけは、許せません」


 彼は欲望のために私たちの国を亡きものとした。


「もう一度あそこに国を、……取り戻したい」


 つい吐いてしまったその言葉により、魔族による国の奪還作戦が幕開けることとなる。



 ◆



 数ヶ月後、私は、生まれ育った地に帰ってきた。


 隣には魔族の王である夫。

 私はかつてここにあった旗を掲げる。


「良かったですね」

「……すみませんでした、勝手なことを」

「いえ」


 旗を持つ私を見て彼はまた微笑む。


「この光景を見られて嬉しいですよ」


 精霊族軍は魔族によりこの地から追い出された。


 私は以前とは異なる形ながら我が国の旗を再び掲げられることとなった。

 とはいえかつての国とまったく同じではない。

 魔族とかつての国の少しの生き残り、二つの種族が共存する、新しい国だ。


「復興は大変そうですが……頑張りましょうか」

「はい、ありがとうございます」


 さて、ここからまた新たな始まり。


 両親はどんな顔で見ているだろう。



 ◆



「失礼します」


 生まれ育った地へ帰ることができてから一年半。

 この国はまだ復興の最中にある。


「こちらの書類、お届けに参りました」

「ありがとうございます」

「先日の二点、揃っております。今のところ不足は確認されておりません」

「助かります」


 王妃としての仕事からは少し外れたことまでしてしまっているため毎日忙しいのだが、私が自分で望んでしていることなので苦痛はない。


 ゼロからの出発は大変だ。

 その代わり、やりがいはある。


 一つ一つ進んでゆく。


 一つ一つ築かれてゆく。


 確かな手応えが希望となる。

 今は前を向ける。

 駆け出したいくらいの思いで進める。


 そういえば、私の国を売ったあの王子は、終戦直後に魔族によって拘束されたそうだ。


 西の空き家に監禁され、拘束された直後から今まで、毎日のように拷問のようなことをされているらしい。


 彼はすべてを失った。


 自由も、権力も、欲望を満たす権利も、もはや彼にはない。


 彼はこれからいつまでも小屋の中で苦しみ続けるだろう。

 心も体も傷だらけになる。


 いつか気づくだろうか? すべてを失った私が感じた苦しみがどれほどのものだったか。……いや、それは無理かもしれない。彼のことだ、きっと、私の苦しみに心を寄せはしないだろう。欲望のためなら他者を犠牲にできる人間が他者を理解できるか? 恐らく無理だろう。


 それでも、体の痛みくらいは感じるはず。


 せいぜい苦しみ続ければいい。


 彼を待つのは闇。

 死ぬまで地獄。



◆終わり◆

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