嫌いとはっきり言われたうえ婚約破棄されてしまいました。
そこそこ地位のある家の長女として生まれた私は、親が決めてきた男性と婚約することとなった。
この家に生まれたから仕方のないこと。
だから私は抵抗はしなかった。
定めに従い、その中で生きよう。
そう思っていた。
「あんたとの婚約、破棄するわ!」
ある日、婚約者セヤネンはそんなことを告げてきた。
彼と婚約者同士となりやがて結婚し夫婦として生きてゆく。そんな人生を当たり前のものと思っていた私にとって、その婚約破棄は衝撃的なものだった。だって、婚約を破棄するということは、人生という定めをぶち壊すということだ。彼はそんなことを平然とやってのけた。それが理解できず、衝撃が大きすぎて脳が破裂してしまいそうだった。
「あの……なぜ、ですか……?」
「嫌いやから!」
「え……」
「ほんとそれだけ! シンプルな理由やろ? それ以外に理由はないねん」
こんな時であっても、セヤネンは爽やかだった。
「そう、でしたか……」
嫌い。
それが理由か。
でもそこまではっきり言われてしまってはどうしようもない。
「分かり、ました……。では、私はこれで……失礼、します……」
なるべく動揺を隠すようにして、セヤネンの前から去った。
実家へ帰った私のもとへ飛び込んできたのは、王子からのプロポーズだった。
婚約破棄されたことを聞き付けて彼はやって来たらしい。
なんでも、以前のあるパーティーの際に一目惚れし、それから気になって、私のことをずっと調べていたらしい。
そして私は王子と婚約する。
◆
あれから数年が経ったが、王子の妻として淑やかに見えるよう気をつけつつ生きている。
王子は良き理解者。
私をいつもそっと受け入れてくれる。
国のため生きていくことになるが、徐々にその心構えができてきた。
これから先、試練もあるだろうけれど、前を向いて誰かと支えあって歩いていきたいと思う。
一方、過去に私に婚約破棄を告げたセヤネンは、不幸の連続に見舞われて今はもう生きていないそうだ。
これは親伝いに聞いた話なのだが。
セヤネンは私との関係を断ちきった直後から何かと不幸に襲いかかられるようになったらしく、いろんな意味で酷い目に遭ったそうだ。
可愛がっていた女性が急死する。
大事にしていたワインの瓶がなぜか割れているのが見つかる。
十年以上使ってきた貯金箱が行方不明。
一日に十回以上右肘を強く壁にぶつけてしまう。
……そんな嫌がらせのようなことが長く続いたそうで。
ただそれらだけなら死ななかったのだが。
ある日のこと、街の大きな図書館で本を見ていると左右の背の高い本棚が急に同時に倒れてきて、それに巻き込まれて重傷を負ってしまったらしい。
しばらく治療を受けるも回復せず、徐々に弱って亡くなったそうだ。
◆終わり◆