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この国でもっとも凄まじいとされる魔力を持って生まれた私は、善人でいることをやめました。

 この国でもっとも凄まじいとされる魔力を持って生まれた私は、国王がそう望んだこともあり、平民の出でありながら王子と婚約することとなった。


 王子との婚約を機に城に入ることを指示され、私はそれに従った。


 だが、それからが地獄で。


 侍女たちには「平民の出のくせに」などと言われ虐められ、王族がいないところでは細々とした嫌がらせをされた。数人の侍女に建物の裏に呼び出されて怒鳴られたり泥をかけられたりしたこともあったくらいで。王子の婚約者とはとても思えないような扱いであった。


 私が魔法を使えば侍女くらいこてんぱんにできただろう。

 でもそれをしなかったのは、婚約の際に国王から『その力は国王が許可した時のみに使ってくれ』と言われていたからだ。


 私はそれを守っていた。


 だから、暴言を吐かれても、服を汚されたり破られてたりしても、張り手されても、私は魔力をひけらかすようなことはしなかった。

 が、そのこともあってか皆に舐められてしまい、なおさら虐められるようになってしまったのだった。


 夫となる人である王子は他人事。

 相談しても聞いてさえくれず話を変える。


 私には味方はいなかった……ただ一匹、城内で飼われていた青い鳥魔獣以外には。



 ◆



 一年ほどが経とうとしていた頃、私は、数名の侍女に呼び出された。


「アンタさぁ、ホントうっざいんだけど?」

「死ねよ」

「あはは~、来てくれるぅ~?」


 子どものような言葉選びに呆れる。

 いつもの私ならそうだっただろう。

 でもその時の私は少し調子が悪く機嫌もあまり良くなくて。


「この乳で王子に迫ってんのぉ~?」


 そう言われた瞬間、私の理性は消え去った。


「もういい加減にして……」


 呟くと、目に熱を感じる。


「ひっ……! 目が、目が……光ってる……!」

「何よそれ! 脅せば勝てると思ってんのか!?」


 侍女たちの言葉で気づいた。

 私の目は光っているのだと。


 その次の瞬間。


 二つの目から太い光線が放たれ侍女のうちの一人を焼き払った。


「き、きゃあああああ!!」


 響く悲鳴。

 けれど私はもう止まらない。


 枷の外れた私は誰にも止められない。


 私でさえ、止められず。


 その大きな魔力とそれを使った魔法で。

 侍女たちを焼き尽くした。



 ◆



 次に気がついた時、私の前には王子がいた。


「君は、侍女を殺めたそうだな」

「……私は」

「これだから平民は。まったく、野蛮としか言えないな」


 ということで、と一旦落ち着いてから、続ける。


「お前との婚約は破棄とする」


 王子は淡々と宣言。


「それと、お前は処刑な」

「え……」

「明日、処刑する。当たり前だろう? 殺人犯なのだから」


 そう。私は人を殺めた。だから殺されても文句は言えないのかもしれない。でも、それでも、助かる道はないのか。私とて害のない相手を殺すようなことはしない。散々虐め抜かれてあの行動に至ったのだ。


 でも……きっと聞いてはもらえないのだろう。


 どうせ私だけが悪いのだ。


「……すみませんが」


 私は魔法を使うことを選んだ。

 その力で私を拘束している兵二人を弾き飛ばす。


「私はもう言いなりにはなりません」


 婚約破棄はそれでいい。

 そこへのこだわりはない。


 どうやっても悪として扱われるなら、この際、悪となってみせよう。


「では失礼します」


 私は一人で歩く。


 城を出ることは決めている。

 迷いはない。


 通路を歩いている時「今日もお一人なのね」とか「婚約破棄されたらしいわよ、可哀想な魔女ね」などという声が聞こえたが、そんなものは無視した。


「あの女を捕らえよ!」

「急げ!」

「早くしろ!」


 追いかけてくる者はすべて魔法で消した。


 ただ一匹、城内で飼われていた青い鳥魔獣以外は。


「ありがとうピッピ、一緒に来てくれるのね」



 ◆



 青い鳥魔獣ピッピと共に街へ出た。

 平民ばかりがうろついている街はとても懐かしく温かかった。


 いつまでもここにいたい。

 そう思いつつも、次の動きを始める。


 私は水面下で革命を企てているという組織に入り、王族が牛耳るこの国を人々の国にするべく動き出す。

 もっとも、私が望むのは王族を仕留めることだけで、その後の国の運営には興味はないのだが。


 国をひっくり返す時、この魔力は役立つだろう。


 それゆえ、組織へ入るのは容易かった。


 私は王族にとって悪だろうがそれでも構わない。



 ◆



 二年後、この国は変わった。


 革命が成功したのだ。


 組織が芯をとり、国民も立ち上がったことで、王族は次々に捕らえられ処刑された。もちろん、王族に味方した一部の貴族や侍女や兵たちも多くが命を落とすこととなった。


 かつて私を放置し最後には婚約破棄したあの王子も、城を抜け出そうとするも失敗し拘束された。そして、革命の一週間後、全裸で広場に晒された。ちなみにこれは、赤子などを除く王族のほとんどの者に行われたことであった。男女関係なく晒されていたのだから、彼だけが例外、なんてことはない。


「もう行ってしまわれるんですか? せっかく革命が成功したのに……」

「ええ、私は革命後の国には必要ありませんから」

「そんなこと! そんなことないです! 貴女は必要です!」

「ごめんなさい、最初からそのつもりだったのです」


 することはおおよそ終わったので、そろそろ旅立とうと思う。


「今までありがとう、さようなら」

「……はい、さようなら……本当に、ありがとうございました」


 こうして組織の者たちとは別れた。


「行きましょう、ピッピ」


 青い鳥魔獣と共に国を出る。


 見上げた空は、ピッピと同じくらい綺麗な青だった。



◆終わり◆

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