強い妻は嫌ですか? ~婚約破棄から動き出す新たな人生~
「せい! はぁっ……とりゃあッ!!」
私の名はリーリン。
二十歳になったばかりの女なのだが、剣で戦ってモンスターを倒す仕事をしている。
この仕事についたのは十歳の時。
剣術の指導をしていた親の影響で剣術を覚えた私はあっという間に敵なしになり、いつしか強い者と戦うことを欲するようになっていった。
とはいえ、村では特に強い相手に剣を機会はなくて。
どうすれば戦えるのかと思っていた時にモンスター退治の仕事を知って、すぐに応募した。
十歳だったので「子どもじゃねーか」と言われてしまったのだが、実技試験はすんなり通過し、認められてその職に就くことができた。
そんな私には婚約者がいる。
だが彼は私が戦うことを良く思っていなくて……。
「自分より強い女とか萎えるよ。ということで、婚約は破棄するよ」
今日、ついに言われてしまった。
婚約者の彼ビーナブは文化系の男性だ。そのため私とはタイプが違っていた。それなりに無難に関わってはいたのだけど、薄々予感はあって。だから、婚約破棄を告げられたこと自体にはそれほど驚かなかった。
ついに来たか、と思うくらいのものである。
「野蛮な女を妻にするなんて嫌だよ。じゃ、そういうことで。ばいばい」
その言葉が、二人の関係を終わらせた。
ビーナブとの縁が失われてからは、仕事により一層力を入れるようになった。
毎日のように出掛けてはモンスターと戦う、血に濡れることも恐れない、そんな日々だった。
たまに親に心配されることはあったけれど、放っておいてほしい、という思いは大きくて。
だが、ある時、氷の洞窟内にて負傷してしまう。
胴体を豪快に裂かれ倒れる。赤いものが流れ出て、痛みに襲われ、動けない。見えるのは天井と私を舐めるように眺めるモンスターだけ。味方になってくれそうな人のいない場所で一人ぼっち。少しずつ寒くなってゆく。
このまま死ぬのか……。
そう思いはしたが、それでもいいとも思った。
これが私の人生だ。
そう思い諦めかけたのだけれど。
結論から言うと、助かった。
意識を失っている時に通りかかった人が助けてくれたようで、私は気づけば病院の一室にいた。
「気がついたようですね」
「……はい」
「洞窟で傷を負われたようですね」
「……ご迷惑、お掛けしました」
銀縁の眼鏡をかけた医師が声をかけてくれる。
それが、彼、アボボとの出会いだった。
それからしばらく、私は働けなかった。身体が元のようには動かないからだ。徐々には回復してきたけれど、仕事をする許可はなかなか貰えなかった。
そんな事情もあって荒れていた私を、アボボはいつも励ましてくれた。
「大丈夫、きっと回復しますよ」
「……ありがとう。でも……もやもやします、じっとしていると」
やがて、退院の時が来る。
アボボと話すのももうこれで終わりか、と、少しばかり寂しく思っていたら……まさかの、彼から愛を告げられた。
「え……えっと、あの……それって……」
「貴女みたいな人と生きたい、そう思うのです」
「えええ!」
「本気です」
彼が言うには、私の強いところに惚れたらしい。
野蛮だ何だと悪く言われることはあっても褒められることはあまりなかったのでかなり驚いた。
けれどももちろん嬉しい。
治療してもらってその気になっているだけかもしれないが、彼のことは嫌いではない。
「こちらこそ……よろしく、お願いします」
そうして私はアボボと結ばれることとなった。
彼は私の身を案じながらも私が仕事に戻ることを許してくれた。そして、何かあったら自分が助けるのだと、そう誓ってくれた。もっとも、私が戦いで負傷することなんて稀なのだけれど。それでも、万が一の時には彼が助けてくれると思えたので、戦いに戻ることへの恐怖は大きくなかった。
私は望んでモンスターの前に戻ってきた。
今は一人でない。
だからこそ、より一層、強くあれる。
ちなみに元婚約者のビーナブはというと、ある晩恋人にかっこいいところを見せようと調子に乗って洞窟へ入り込んでしまい、モンスターにこてんぱんにされたそうだ。
また、恋人は命を落としてしまったそうだ。
ビーナブは一人逃げ出して何とか命は助かったらしい。だが、恋人を死なせてしまったことで体調を崩し、憂鬱感を強く覚えるようになって。いつしか家の外に出ることを極度に恐れるようになってしまったらしい。窓が開いて外気が入ってくる、それだけでも、酷いパニックになるそうだ。
◆終わり◆




