わがままな彼の意思で強制的に婚約させられましたが夜に脱走しました。~私の人生は貴方には渡しません~
私がダイスに惚れられたのは学園を卒業する直前だった。
散々追いかけ回されたが学園にいる間は色々言って逃げ回った。学生は学ぶのが仕事のようなものだからと言ったこともあったくらいで。様々な手を使い、何とか上手く立ち回って、彼から離れるよう努めてきた。
だがそれも卒業すると無理になってしまって。
甘やかされて育った少々わがままな彼は、家の権力を利用して、私との婚約を一方的に成立させた。
で、それから私は、彼の家に住むことを強要されたのだ。
与えられた部屋はまともな部屋。物置や牢といった清潔でないところではない。が、残念ながらその部屋から出ることはできない。部屋も衣服もあるし、食べるものは貰えているし、彼とて私を弱らせたり殺したりする気はないのだろう。私をここに置いておくことが目的なのだろう。
けれど、私は彼の言いなりになる気はない。
私の人生は私のもの。
貴方のものではない。
誰にも渡さない。
今はまだここから出ることはできないけれど、生涯を捨てる気などありはしないのだ。
いつか機会があればここから抜け出す。
既に心は決まっている。
◆
その夜、私は脱走を試みることにした。
なぜ今夜か?
簡単なこと、今夜はダイスが家にいないからだ。
彼は鍵をかけているから油断しているのだろう。
でも鍵なんて関係ない。
扉を開けて出ることができないなら、窓を割って出るだけのこと。
その日、私は窓を割って脱出した。
警備の者に追いかけられて一瞬危なかったが、何とか逃げ切れた。
不気味な森に入り込むことになってしまったけれど。
でも、今は不気味な森さえも恐ろしくはない。
私はここより恐ろしい場所を知っている。
だから不気味さなど恐れない。
私は暫し森に身を潜め、その後実家へと帰った。
◆
あれから数年が経った。
私は今、実家で、両親と三人で大きな問題なく暮らせている。
監禁に近い状態にされるというあの経験はとても恐ろしいものだったが、今はもうその傷も癒えつつある。いや、本当のところは定かではないが。ただ、四六時中それを考えてしまっているかというとそこまでではなく、それなりに心穏やかに暮らせている。
だがそんな風でいられるのもダイスがもう生きていないからだろう。
ダイスは私が脱出した直後の朝に帰宅したそうなのだが、割れた窓から侵入していた不審者と運悪く出くわしてしまい、パニックに陥った不審者に刃物で何度も刺され続けることとなったそうだ。
そして、その傷によって、数時間以内に亡くなったらしい。
◆終わり◆