あの赤い瞳、伝説の悪女の生まれ変わりよ! なんて言いふらされましても。私はただの娘なので、放っておいてください。
私は赤い瞳を持って生まれた。
特に何か異常があったというわけではないのだが、目の色だけが周りと違っていて。
それゆえ、小さい頃から、そのことについて言われることは少なくなかった。
まだ小さい頃には「変な目の色してるね!」などと声をかけられるのは日常茶飯事。でも子どもはまだいい。子どもは直接言ってくれる分まだましだと思えるのだ。むしろ、気を遣っているようなふりをして裏でごちゃごちゃ言っている大人たちの方が質が悪い。
そんな風にして育ってきた私は、婚約でも、またこの目に足を引っ張られることとなる。
「これからよろしくね~」
「よろしくお願いいたします」
婚約者となったエブリは私の目については特には触れなかった。
だが。
「貴女、その目、どうしたの? ふふ。充血でもしているのかしら?」
エブリの母親はこの目の色を流してはくれなかった。
「珍しいわねぇ。確か、親御さんはそんな色の瞳ではなかったわよねぇ」
「そうですね、色が違います」
「生まれつき、なのかしらぁ?」
「はい、そうです」
その日はそこで瞳の色の話は終わった。
しかし、後日知ったのだが、エブリの母親はこの後知人に「あの赤い瞳、伝説の悪女の生まれ変わりよ!」などと言って回っていたらしい。また、赤い瞳の嫁に当たるなんて最悪、というような文句もこぼしていたそうだ。
彼女は私は気に入らなかったようで、それから一ヶ月ほど経って……。
「悪いけど、婚約、破棄させてね~」
エブリからそう言われてしまった。
理由はやはり「目の色を母が嫌がっているから」だった。
私は確かに赤い目を持って生まれたけれど、悪女ではないはずだし、ただの娘でしかない。
それなのにありもしないことを言いふらすなんて。
エブリの母親は、結局、私の悪い話を言いふらしたいだけなのだろう。
そんなところにいて幸せになれるはずもない。
だから私は婚約破棄を受け入れた。
◆
エブリとは終わったが、それから数週間が経過した頃に叔母の紹介で一人の青年に出会うこととなった。
で、彼と仲良くなり、結婚するに至る。
最初は男性と顔を合わせるのは気が進まず会わなくていいように色々考えて頑張っていたのだが、今は彼を紹介してくれた叔母に感謝している。
現在は夫となった彼の仕事を時折手伝いながらも主には家事に熱を注いでいる。
それと、最近は編み物も始めた。というのも、夫の母親が編み物教室をしている人なのだ。優しい女性で、私にも教えてくれた。そうして始めたところはまってしまい、自ら編み物をするようになっていったのである。彼の母親は今も私の先生だ、困った時にはそこへ相談しに行く。
私が幸せに暮らせている一方、エブリは母親の介入によって結婚できない状態になってしまっているそうだ。
エブリ自身は誰かとの結婚を望んでいるようで。しかし母親はエブリを自分だけのものにしておきたいらしく、エブリの相手になりそうな女性が現れるたびに気に食わないところを見つけて知人に言いふらしたり直接言ったりしているようである。つまり、息子の結婚が順調にいかないよう妨害しているのだ。
困った母親を持つと大変だなぁ、と、その話を聞いて思った。
◆終わり◆




