婚約破棄、そんなものは怖くない! ~煽り大好きな彼の末路~
「お前みたいな女と夫婦になるとか、やっぱ無理だわ。てことなんでー、婚約、破棄しまぁーす」
婚約者アサがあっかんべーをしながら婚約破棄を告げてきた。
なぜわざわざ変な顔で言う必要があったのか。
謎でしかない。
普通に言えばそれでいいと思うのだが。
だが、なんにせよ、二人の関係が終わったことは確か。
「そう。分かった」
「あっはーん? 悔すぅいかー?」
「いいえ」
「強がりーん、イッテテテぇー」
なぜいちいち煽ってくるのだろう……。
気を引きたいのか? いや、でも、それなら婚約破棄なんてする必要はないだろうに。何か別の意図が? 怒らせたい、とか、泣かせたい、とか? だがそれにしては表情がいちいち情けない。彼は自ら好んで恥をかいている。
「さようなら」
私は涼しい顔で去る。
彼の煽りには乗せられない。
私たちはここで別れる。でもそれでいいと思う。あんな風な煽り方をしてくるような人を夫とするのは嫌だし、絶対いつかややこしいことに巻き込まれる。そんなのは嫌だから、ここで別れておく方が良いかもしれないとも思う。
それにしても、今日の空は綺麗だ。
青く澄んで。
私を祝福してくれているみたい。
◆
婚約破棄から三年。
私は今、結婚して、二児の母となっている。
毎日は泣きたいくらい忙しい。それも朝から晩まで。家にいるのだが、家の中をいつも走り回っている。特に子どもがまだ小さいので、休む間はない。寝る時間さえほとんどない。
ただ、夫は感謝してくれる。
そこはとてもありがたいと思う。
一方アサはというと。
やはりあの後事件に巻き込まれることとなったようだ。
ある夜、国内ながら離れた地域を旅行していた彼は、その地域を取り仕切っている暴力組織の男と喧嘩になる。もし彼が早くに大人しく去っていれば何もなく終われただろうが、残念なことに、彼は相手を挑発してしまった。はげ、でぶ、などという暴言を繰り返したらしい。で、それによって相手を怒らせてしまい、暴力組織の事務所へ連れていかれてしまった。そこで何日も拷問され、静かに息を引き取った……それがアサの最期だったとのこと。
亡くなってしまったことは気の毒に思うが、煽らなければ良かったのにと思ってしまう部分もある。
◆終わり◆