婚約破棄、それがすべてを終わらせた。
「君にはもう付き合えない。だって君、いちいち鬱陶し過ぎるもん。てことで、婚約は破棄するから」
その言葉を告げられた時、私をこの世に縛っていた最後の鎖が砕かれた。
「そう……です、ね。では、これで。……今までありがとうございました」
浮かべるのは笑み。
これはただの作り物。
気持ち悪いくらいの人工的な表情。
私は彼の前から去り、いつもよく遊んでいた森へと駆け出す。
走ると風を浴びられて気持ちいい。
そう思っていた頃もあったけれど。
今は風にさえ嘲笑われているような気がして。
「……よし、終わらせよう」
私は生まれてからずっと辛い思いばかりしてきた。唯一の希望である母親は早くに亡くなり、前の妻の血を引くために父親には鬱陶しがられ、義母となった女性とその娘たちからは嫌われ馬鹿にされてばかり。家庭環境もあり皆からは引かれ、友人もろくにできなくて。虐めてくる人だけが周りに集まっていた。
良いことなんてなかった。
彼との婚約以外、は。
彼だけは好きだった。
彼がいるから生きていられた。
でも……それすらも失った私は、もう、ここに立ってはいられない。
「終わりね、これで」
今日、今ここで、すべてを終わらせる。
最期の瞬間思う。
もしも次があるなら、その時は……。
幸せに、生きたいな。
◆終わり◆