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婚約破棄された聖女、翼を得たので平和を求め旅立つ。

 私、リリア・フォルクテは、普通の家に生まれた。


 しかし五歳の時にこの国で伝説になっている聖女であることが発覚し、国を護ると言われているその特殊な力ゆえに、自由に生きることは許されなくなった。


 国を護る力を持つ者を国王が放っておくはずもなく。

 私は国王の命令ですぐに拘束されて。

 その後は城のすみっこで暮らすことになった。


 で、年頃になると国王の長男である王子アレグリアと婚約。


 これで安泰だ、と、国王は大層喜んでいた。


 だがアレグリアはそれの定めを受け入れなかった。私は受け入れたけれど、彼も同じようにできるわけではなく、彼は国より己を優先した。彼には愛する女性がいたのだ。


「リリア・フォルクテ、君との婚約は破棄とする」


 彼は愛する女性と生きることを選び、私には一方的にそう告げた。


 こうなってしまってはもはやどうしようもない。

 私は大人しく彼の前から去るしかない。

 聖女とはいえ私には王子と戦うほどの権力はないから。


 こうして、長い間過ごした城から放り出されることとなる。


 国王はこのことを知らない。アレグリア自身が、親には相談していない、と言っていたから本当だろう。となれば、この先、いつか親子は喧嘩になるに違いない。父王は私を勝手に手放したことを怒るだろうし、アレグリアは己の意思を通すことに必死になるだろうから。


 でも……そうなったとしても、私には関係ないことだ。



 ◆



 婚約破棄された日の夜、宿に一人で宿泊していると、室内に光の粉が漂い始める。何事かと思って暗闇で困惑していると、やがて、粉は一つの塊となった。一人の女性、五十代くらいに見えるふっくらした人物が、私の前に姿を現す。銀のドレスを身にまとっていて、全身が煌めいていた。


「あんた、偉いね」

「え……っと」

「あんな理不尽な目に遭っても生きている、偉いよ」


 急に褒められる。


「そんなあんたに、あげたいものがあるんだ」

「え」

「今ここであげるよ」


 女性は杖を取り出しそれをふわりと振った。

 するとうつ伏せで寝ていた私の背に一対の白い翼が生える。


 いつか絵本で見た天使に生えていたような見た目の翼だ。


「これは……」

「翼だよ」

「やっぱり……」

「リリア・フォルクテ、あんたはこれで自由だ」


 急展開過ぎて話についていけないのだが……。


「だから、好きなところへ行って、好きなことをするといいよ」


 そう言って、女性は微笑んだ。


 その数秒後、それまで確かにそこにいたはずの女性は、光る粉になって消えた。


 好きなところへ行って、好きなことを……か。


 思えばこれまで私がやりたいことをしたことなんてなかった。私は聖女、国のために生きてゆく女だったから。けれども、王子と離れ城から出された今、私には個人として生きられる可能性が発生してきている。これまでとは違う生き方をできる可能性が出てきているのだ。


 平和に暮らしたい。


 私の一番の望みというと、やはりこれな気がする。


 戦いは嫌いだ。虐めや嫌がらせも。城にいた時はそういうことが蔓延っていて、いつも心休まらなかった。それも運命と諦めていたけれど、でも、逃れられるならそういうものからは逃れたい。穏やかな世界で、のんびりと、心安らぐ時間を楽しみたい。


 そうだ、旅に出よう。


 今は翼がある。

 これがあれば自由に旅できる。


 その瞬間、私の心は決まった。



 ◆



 あれからどれほどか時が過ぎたが、私は今も旅を続けている。


 たくさんの国に行った。

 いろんなものを見た。


 いつかはどこかにとどまるのか、あるいは一ヶ所にとどまることはしないのか、そこはまだ決めていない。


 でも、何にしても、この翼は奇跡だ。


 これがなければ旅は成り立たなかった。

 つまりこれがすべてなのだ。


 そういえば最近風の噂で聞いたのだが、アレグリアはあの後父王と険悪になったそうだ。


 やはり、最初の揉め事の種は聖女、つまり私に関する件だったようだ。で、そのことで揉めているうちに二人の関係がどんどん悪化していって。アレグリアはついに刺客を使って父を殺めることを決心、雇った刺客で父王を殺害することに成功する。


 だが、アレグリアに協力した同僚の中に裏切り者がいたことで、アレグリアが首謀者であることがばれてしまって。


 結局、王座には次男が就くこととなったそうだ。


 アレグリアはというと、王子という肩書きをなかったことにされ、塔に監禁されたうえ罰として十年以上拷問のようなことをされ続けたらしい。



◆終わり◆

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