たとえ婚約破棄されたとしても、踊っていれば幸せなんです!
その日は突然やって来ました。
婚約者ブルボの家からの遣いを名乗る者が家に現れ、何事かと思っていると、私と彼の婚約が破棄となったことを告げられました。
それを聞いた私とその両親はただただ愕然とすることしかできませんでした。なぜなら、それらしい前触れなど一切なかったからです。何らかの問題が発生していたなら、喧嘩したなら、まだこの話も理解できたでしょう。しかしそんなことは何一つとしてなくて。だから私たちは、婚約破棄の報告を受けても、ただ口をぽかんと空けていることしかできなかったのです。
その後、ブルボの家に連絡し確認しましたが、婚約破棄は事実だったようで。
また、婚約破棄の理由は意外なもので、『趣味に没頭しているようなやつと生きるのは無理だ、妻は俺第一でなくては』というようなものだったようです。
こうして私は彼とは離れることとなりました。
「こんなことになるなんて……ううっ……」
「大丈夫よ母さん、心配しないで」
私より母親の方がショックを受けていました。
「これはきっと新たな道への導きだわ」
「でも……」
「大丈夫。きっと未来は明るいと思うの」
その日、私は決めました。
これからはもう誰にも縛られず誰にも支配されない道を行く、と。
そして舞踊の道へ進むことに。
というのも、私は三歳から数種類の踊りを習い楽しんできたのです。
この道であれば進んでいく自信がある。
私は再び踊り始めました。
◆
ブルボとの婚約が破棄となってから二年、私は今この国で十本の指に入るくらい有名かつ人気な踊り子となっています。
自分で人気とか何とか言うのはおかしいかもしれませんが……すみませんがその点はおおめにみてください。
で。
毎日ステージに立ち、人々に歓声を貰いながら、踊ります。
美しい衣を身にまといながら舞う。
舞台の上では私は一つだけの華になれる。
私はこの生活に満足しています。
普通に婚約した時には、普通に結婚するのだと思っていた頃には、こんな形の未来を想像はしませんでした。
そもそも踊り子になろうと思っていたわけではなかったですし、踊りは趣味として続けていければと考える程度でしたし。
でも、私はここへ来ました。
色々あったけれど、それらもまた、私をここへ誘うものだったのかもしれないと思うことがあります。
ならば、すべてに感謝しましょう。
ここへ導いたあらゆるものへありがとうを告げましょう。
そういう気持ちでいます。
◆
これは最近知ったことなのですが。
ブルボはあの後大きな額のお金を借りて事業を始めたそうです。
しかし、事業を始めて一ヶ月も経たないある朝に、寝ぼけていたのかうっかり道端の溝にはまり足を怪我。自力では歩きづらく、杖をついて歩くようになったそう。
しかしそれだけでは終わらず。
それからさらに一週間ほどが経った夜、崖から転げ落ちてしまい、そのまま意識不明になってしまったそうです。
で、今も目を覚ましていないとのことです。
◆終わり◆