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おっちょこちょい令嬢はのほほんと暮らす。~婚約破棄にもさほど動じない~

 肌は滑らか、しみ一つなく、まるで良質な作り物であるかのよう。眉は柔らかな弧を描き、目もともふんわりとした雰囲気を漂わせていて、美しい潤んで見える瞳は翡翠のような色でまるで宝石。金に近いような色みの髪は腰に達するくらいまで伸びていて、直毛で表面には艶がある。


 どこから見ても美しい女性なルルエリシアは、少々おっちょこちょいだ。


 彼女は見た目だけだと完璧な美女に見える。

 しかし少しばかり浮世離れしているところがあって。

 そこを好み可愛いと感じる者もいることは事実なのだが、逆に、そういうところが気に食わないという者もなかには存在する。


 彼女の婚約者である黒髪の青年アボスは後者だった。


「ルルエリシア、君はどうしてそんなに失敗ばかりするんだ」

「ええと……何のお話でしょうか……?」

「馬鹿が! この前、種を変なところに蒔いただろう!」

「あ……あれは、間違っておりましたか? 申し訳ありません……」


 アボスは怒っている。

 ルルエリシアのすべてに対して。


「君とはもうやっていけない! よって、婚約は破棄とする!」


 感情的になった彼は、はっきりと、そう宣言した。


 一瞬は驚いたように口を丸く空けたルルエリシアだったが、数秒もすれば、首を傾げるような動作をしながら微笑む。


「承知しました」


 ルルエリシアは笑顔。

 それに対して腹を立てたアボスは「とっとと出ていってくれ! 君の顔なんかもう見たくない!」と吐き捨てるように発した。


 こうして、二人の関係は終わる。


 ルルエリシアはアボスの家から出るや否や落とし穴にはまった。が、穴に落ちてもなお彼女は動じない。苦笑して一人「やってしまいました……」と呟くと、落ち着いて、慎重に穴から出る。そして、青いワンピースについた土を払い、そのまま歩いて実家へと帰った。


 ちなみに。

 彼女が落ちた落とし穴は、近所の子が遊びで掘ったものである。


 もっとも、ルルエリシアはそのようなことは知らないし知ろうともしなかったのだが。


「ルルエリシア!? どうしたの土なんかつけて!!」

「お姉さま、すみません。落とし穴に落ちてしまって……」

「ええっ」


 ルルエリシアには姉がいる。

 彼女はいつも、マイペース過ぎる妹を心配している。


「それと、婚約破棄されてしまいました」

「えええ!?」


 姉は失神しそうなくらい驚いていた。


 その後ルルエリシアは水で体を洗うこととなる。いや、洗われることとなる、の方が正確か。姉がルルエリシアの身体を洗ったのである。もちろん、服も洗いに出される。


 以降、ルルエリシアはアボスのことを忘れたかのように、元通りの暮らしに戻った。


 家の庭で飼っているうさぎを膝に乗せて可愛がったり、紅茶を飲もうとしてこぼしたり、姉と庭の池にいる魚に餌をやっていて池に落ちたり、書き物をしたり……ルルエリシアは普通に暮らしている。


 一方アボスはというと。


 ルルエリシアとの婚約を破棄した数日後家から出た瞬間落とし穴に落ちてしまい、深い穴だったために落ちた衝撃で身体を強打、打ち所悪く亡くなってしまった。


 ちなみにこれも近所の子どもが掘っていたものである。


 ただ、ルルエリシアが落ちた穴の二倍以上の深さがあり、より危険な落とし穴となっていた。


 ちなみにルルエリシアはアボスの結末を知らない。



◆終わり◆

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