感情的になって婚約破棄した身でよくもう一度なんて言えますね、恥ずかしくないのですか呆れます。
幼い頃から料理が好きだった私は、十八歳になったその日、新興領地持ちの家の子息であるエレルレッゼ・フリュベルから婚約してほしいと言われた。
家の地位的にこちらの方が下だったこともあって断ることは難しくて。
受け入れるしかない状況で。
私はそのままエレルレッゼと婚約することとなった。
本当は料理の道へ進みたかったのだけれど……夢は夢として諦めるしかなかった。
――しかし。
婚約後数週間経った頃から、彼の行動に不審な点が増えてきた。
それまでは定期的に会っていたのだが次第になぜか無視されるようになってゆき、少し会おうと誘ってみても用事があるとか何とか言われて断られるようになっていって。
そして気づけば、とても婚約者同士とは言えないような関係になっていってしまっていた。
で、やがて、親友が教えてくれる。
「エレルレッゼさん、女と歩いてたよ!!」
聞きたくなかったけれど薄々勘づいていた現実――それから目を逸らすことができない時が来てしまった。
「エレルレッゼさん、最近、特定の女性と会っているそうですね」
「え? 何の話?」
「目撃情報がたくさん集まってきているんです」
「……目撃情報?」
「金髪でたらこ唇な女性と定期的に会っていますよね。で、その人の名前はミルレアさんではないですか? エレルレッゼさんがその女性と一緒にいるところを目撃した親友から、そう呼んでいたと聞きました」
すると彼はふぅーと息を吐き出して。
「ああ、彼女のことか。ミルレア、確かに知り合いだよ。でもきっと君が思っているような関係じゃない」
「そうですか? でも、二人で会っていたのですよね?」
「昔の知り合いでさ。たまに会うんだ。でもそういう関係じゃないよ」
「でも、キスしていたと聞きましたけど……」
すると突如彼は目を剥く。
「はぁ!? 何なんだよ! しつこいな! いい加減にしてくれよ!!」
いきなり激しく言い放たれたので驚いて固まってしまった。
「お前いい加減にしろよ! 他の女? ちょっとくらいいいだろ! 会うくらい好きにさせてくれよ!! 鬱陶しいんだよ、恋人面しやがって!! 婚約者の座はお前に渡してやってんだから黙ってろよ」
きょとんとしてしまっているうちにも話は続く。
「あ、そうだ。婚約、破棄するわ! そうだ、簡単なことだったな、そーういうこと! じゃ、婚約は破棄で!」
しかも終わりを告げられてしまった。
やらかしたのは貴方じゃないの! と思いつつも、私はそれを受け入れた。
そうするしかなかったのだ。
こうしてエレルレッゼとは別れることとなったのだった。
――その後私はどうしたかというと。
料理人への道を歩むことを選んだ。
始まりの時期は少々遅れてしまったけれど。それでも何事にも遅すぎるということはないものだ。そう考えたので、自分が進みたい道へ進むことを決めたのである。
で、有名料理人の下で修行を重ね、やがて料理人としての評価を得ることに成功した。
ちょうど私は成功し始めた頃。
「久しぶりだな! 覚えているか?」
「エレルレッゼさん」
「そう! 正解! ああ~やっぱお前も実はまだ愛してくれてたんだな~良かった。じゃ、早速だが……もう一回婚約しよう!」
エレルレッゼの発言には驚き呆れた。
「何ですかそれ」
「え?」
「愛している? あり得ませんね。勘違いしないでください」
馬鹿だろうか。
「貴方とはもう関わりません」
それだけ言って、彼との縁は完全に断ち切った。
だが私は何もおかしくないだろう?
だって先に切ったのは彼だ。
かつて彼が私を切り落としたのだ、その彼にもう一度関係を構築しようと言う権利なんてない。
その後私は料理人として働きつつ結婚もした。
料理の師が紹介してくれた好青年と結ばれたのだ。
そして今、家庭を持ちながらも、料理の道をより極めるべく歩んでいる。
やりたいことをやりながら歩んでゆける人生はとても素晴らしい。
この環境に、周りの人たちに、多くの人に感謝しているし――これからも感謝の心を持って歩んでいきたい。
ちなみにエレルレッゼはというと、女遊びの酷さが有名になってしまったために結婚したいのにできなくなってしまったそうだ。周囲の女性たち、誰からも、相手にしてもらえないのだという。
ま、それもこれまでの彼の行いゆえだ。
だから自業自得というもの。
しかし彼はそのことを酷く気にしているようで。
なかなか上手く結婚できないことに悩み過ぎて心を病んでしまっているようだ。
◆終わり◆




