わがまま妹は聖なる夜に婚約破棄され壊れてしまいました……。ま、嫌がらせされなくなって嬉しさばかりですけどね。
わがまま妹に先月婚約者ができた。
それ以来妹はご機嫌で。
これまでは日々色々嫌がらせをされていたけれど、最近は嫌がらせさせられていない。
ありがたい……、と思っていた。
――だが。
「おがあだまああああ! おどうだばああああ! 聞いでぐだざいいいいいいい!」
聖なる夜、婚約者に呼び出されてうきうきしながら出ていった妹は、涙をどばどば垂れ流しながら帰ってきた。
「どうしたの!?」
「なんだなんだ!?」
両親は大層驚いていた。
だがそれも無理はない。
気に入っている娘が号泣して入ってきたのだから。
普通に考えて驚くだろう。
それに、大切な娘が相手なら、なおさら驚き焦るだろう。
「ごんやくばぎだれだあああああ!! 嫌ああああああ!!」
「落ち着いて、落ち着くのよ取り敢えず」
「いやああああ! 嫌だああああ! こんなことおおおお、嫌あ、嫌なのぼぉぉぉぉぉ!」
その日、妹は壊れてしまった。
◆
あれから二週間ほどが経ったが、妹は今も情緒不安定だ。
ずっと泣いているかと思えば急に意味もなく笑い出したり、枕もとに涎を大量に垂らしたり、激怒して暴れたり――そんな感じだ。
両親は色々苦労している。
世話が大変で。
母はもちろん、父も、彼女の感情の揺れに振り回されながら日々を生きている。
でも、私は、今のままでも良いと思っている。
だって、これでもうもう虐められない。
嫌なことを言われないで済むなら、嫌がらせされなくて済むなら、両親が妹に手をかけていても嫉妬はしないし全然構わない。
構ってほしい、なんて、そんな贅沢を言う気はさらさらない。そっとしておいてもらえればそれでいいのだ。虐めないでもらえたらそれでいい。
本当に、私は、それだけで満足なのだ。
◆
あれから、私は、定期的にお出掛けできるようになった。
両親は妹の世話に必死。
だから私はわりと自由に行動できる。
そして、何度も行っていた茶店にて、初めて異性の知り合いができた。
「そうなんですか、妹さんが……大変でしたね」
「驚きましたけど、でも、今はそれで良かったかなと少し思っています」
最近は彼と定期的に会っている。
もちろん出会った茶店で。
美味しいお茶を飲みながら色々話をするのはとても楽しい。
「そうなんですか?」
「はい。ずっと嫌がらせされていたので、今はそれがなくなってホッとしているんです」
「そうでしたか……嫌がらせ。それは、大変でしたね」
「今は快適ですよ」
「なら良かったです」
妹は壊れてしまったけれど、私は今幸せな時を生きられている。
人生とは分からないものだなと思う。
だってそうだろう? これまではずっと、私は雑に扱われていて妹は大事にされていた。なのにこんな結末が待っているなんて。不思議な話だろう? 冷静に考えて。
「それより、少しお話したいことがあるのですけど……大丈夫でしょうか?」
「え。あ、はい、何でしょうか」
少し間があって、彼は言葉を発する。
「……いつか、共に生きませんか?」
そしてまた。
――動き出す、世界。
◆終わり◆