表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1184/1194

わがまま妹は聖なる夜に婚約破棄され壊れてしまいました……。ま、嫌がらせされなくなって嬉しさばかりですけどね。

 わがまま妹に先月婚約者ができた。

 それ以来妹はご機嫌で。

 これまでは日々色々嫌がらせをされていたけれど、最近は嫌がらせさせられていない。


 ありがたい……、と思っていた。


 ――だが。


「おがあだまああああ! おどうだばああああ! 聞いでぐだざいいいいいいい!」


 聖なる夜、婚約者に呼び出されてうきうきしながら出ていった妹は、涙をどばどば垂れ流しながら帰ってきた。


「どうしたの!?」

「なんだなんだ!?」


 両親は大層驚いていた。


 だがそれも無理はない。

 気に入っている娘が号泣して入ってきたのだから。


 普通に考えて驚くだろう。


 それに、大切な娘が相手なら、なおさら驚き焦るだろう。


「ごんやくばぎだれだあああああ!! 嫌ああああああ!!」

「落ち着いて、落ち着くのよ取り敢えず」

「いやああああ! 嫌だああああ! こんなことおおおお、嫌あ、嫌なのぼぉぉぉぉぉ!」


 その日、妹は壊れてしまった。



 ◆



 あれから二週間ほどが経ったが、妹は今も情緒不安定だ。


 ずっと泣いているかと思えば急に意味もなく笑い出したり、枕もとに涎を大量に垂らしたり、激怒して暴れたり――そんな感じだ。


 両親は色々苦労している。

 世話が大変で。

 母はもちろん、父も、彼女の感情の揺れに振り回されながら日々を生きている。


 でも、私は、今のままでも良いと思っている。


 だって、これでもうもう虐められない。


 嫌なことを言われないで済むなら、嫌がらせされなくて済むなら、両親が妹に手をかけていても嫉妬はしないし全然構わない。


 構ってほしい、なんて、そんな贅沢を言う気はさらさらない。そっとしておいてもらえればそれでいいのだ。虐めないでもらえたらそれでいい。


 本当に、私は、それだけで満足なのだ。



 ◆



 あれから、私は、定期的にお出掛けできるようになった。


 両親は妹の世話に必死。

 だから私はわりと自由に行動できる。


 そして、何度も行っていた茶店にて、初めて異性の知り合いができた。


「そうなんですか、妹さんが……大変でしたね」

「驚きましたけど、でも、今はそれで良かったかなと少し思っています」


 最近は彼と定期的に会っている。

 もちろん出会った茶店で。

 美味しいお茶を飲みながら色々話をするのはとても楽しい。


「そうなんですか?」

「はい。ずっと嫌がらせされていたので、今はそれがなくなってホッとしているんです」

「そうでしたか……嫌がらせ。それは、大変でしたね」

「今は快適ですよ」

「なら良かったです」


 妹は壊れてしまったけれど、私は今幸せな時を生きられている。


 人生とは分からないものだなと思う。


 だってそうだろう? これまではずっと、私は雑に扱われていて妹は大事にされていた。なのにこんな結末が待っているなんて。不思議な話だろう? 冷静に考えて。


「それより、少しお話したいことがあるのですけど……大丈夫でしょうか?」

「え。あ、はい、何でしょうか」


 少し間があって、彼は言葉を発する。


「……いつか、共に生きませんか?」


 そしてまた。


 ――動き出す、世界。



◆終わり◆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ