聖なる夜、愛する人と共に思い出す――今年が始まってすぐの頃にあった人生を変えるような大きな出来事を。
聖なる夜、愛する人と共に思い出す――今年が始まってすぐの頃にあった人生を変えるような大きな出来事を。
今日は聖なる日。
年の瀬も近づき、肌を刺すほど寒くなる頃、愛する人と向かい合いグラスを交わす。
「今年は本当に色々あったわ」
「そうだね、僕らが出会ったのも今年だしね」
「ええ……」
「でもその前にまだあったんだよね? 確か」
私と彼はもうすぐ結婚する。
年明け大きく動く。
以降はまた状況が大幅に変わるだろう。
でもきっと良い未来が待ってくれているはず、私はそう信じている。
「そうなの。まず婚約破棄でしょ、しかも婚約者奪ったのが親友だったのよね」
「うわ……きつ」
顔をしかめる愛しい人。
「彼女、私と彼の話色々聞いてくれてたんだけど。でも実は裏で彼と関わりを持っていたのよ。それもかなり踏み込んだところまで至ってて」
「ううっ……」
ますます不快そうな顔をする愛しい人。
彼の好きなところは、色々な話を聞いてくれるところだ。どんな話題でもしっかり聞いてくれるし温かく見つめていてくれる、そして大抵そっと受け入れてくれる。そういうところが彼の良いところだと思う――私は。
「婚約破棄された時はまだ知らなかったの」
「そうなんだ……」
甘いお酒を口腔内に注げば、自然と心が色づく。
愛する人、愛しい人、彼といるだけでも幸せ。
でもお酒も嫌いではない。
少量でも飲めば不思議な心地よさにうっとりしてしまう、いつも。
……もちろん、飲み過ぎないようには気をつけている。
「後から判明したのよね」
「辛いね」
「もちろん、償いのお金は払ってもらったわ」
「おお!」
「ま、少額だけれど」
「高額はさすがに難しいよね……」
「でも少しはすっきりはしたわ。ちょっとしたお金でも、ないよりかはましね」
「意外とそういうものなんだね」
「ま、許せはしないけれどね」
「そりゃそっか」
少し間を空けて、彼は問いを放ってくる。
「それで? その後彼らはどうなったの?」
彼は話を引き出すのが上手。
そういうところはとても尊敬している。
「そうよね、そこが気になるわよね」
話していて楽しい、そう思わせる技術が彼にはあるのだ。
「気になる気になる」
だからつい色々話してしまう。
それも深いところまで。
「彼は親友だった彼女と結ばれるべく動いていたみたい、でも、彼の親がそれに反対していたみたいでなかなか上手くいかなかったようね」
「親の反対はきついな……」
「それでそのうちに熱が冷めてきて、別れたみたいよ」
「ええー」
「それがちょうど貴方と出会った頃なの」
「同じ日?」
「そう、同じ日」
「うわわ……知らなかった」
窓の外へ目をやれば、雪が降り始めていることに気づく。
「親友だったあの子はそれからも他人の男を取って遊んでいたけれど、ある時裁判に持ち込まれてしまって、それで……所持金をほとんど失ってしまったみたいね」
「そんなことになってたんだ!?」
「で、婚約者だった彼の方はというと、婚約者の親友に乗せられて一方的に婚約破棄したって話が流れていたみたいで……」
「流れてたんだ」
「そのせいで印象が悪くて、なかなか相手が見つからなかったみたい」
「そうだったんだ……」
そう、二人は結局幸せにはなれなかったのだ。
私を傷つけて。
私を切り捨てて。
それでもなお、結ばれることはできなかった。
ある意味気の毒な二人とも言えるだろう。
……同情はしないけれど。
「そんなことになったんだなぁ」
「ええ」
「でもさ、二人が結ばれなかったって、すっきりするね!」
「しーっ……」
「あはは、つい本音言っちゃった」
「もう……」
テーブルの上のクラッカーをつまみ口へ運べば、舌に塩の心地よい刺激が届く。
とても素敵な夜だと思う。
今年一年、色々あって大変だったし傷つきもしたけれど、こうして楽しく過ごせる人に巡り会えて良かった。
なんだかんだで、良い年になったと思う。
「僕を選んでくれてありがとう」
「そ、そんな……」
「照れてる?」
「……ええ、正直」
「そっかぁ。可愛いなぁ、素敵」
「これ以上照れさせないで!?」
「あはは、ごめーん」
◆終わり◆