新しい年が来て、婚約破棄されました。~彼は彼、私は私、なのでもう彼のことなんてどうでもいいのです~
新しい年が来た。
そして。
「お前との婚約は破棄とする!」
私はいきなり残念な話に見舞われてしまった。
一年の始まりに突然殴られたかのようだ。
「え? どうしてですか? それもこんな新年に……」
「キリがいいと思ったから今日にした」
婚約者ルポトデッツは釣りが大好きな男性だ。
これまでもいつも一人で出掛けては朝から晩まで釣りをしていた。
私も数回はついていってみたことがある。
「ええっ、そんなの残念じゃないですか?」
「なぜだ。今日はちょうどいい日だろう」
「そんな……嫌ですよこんなの。今日は本来めでたい日なのに」
「だから婚約破棄を宣言することにしたんだ。めでたい日だからこそ、だよ。そちらにとってはめでたくなくとも、俺にとってはめでたい話だからな」
ルポトデッツには罪悪感なんてものは欠片ほどもなかったようだ。
「ではこれにて、さようなら」
彼はそう言ってあっという間に去ってしまった。
一人ぽつんと残される。
新しい年、一日目から、孤独感を覚えることとなってしまった。
なんてことだ。
こんなことになるなんて、昨日までは少しも思っていなかった。
――でも進むしかない。
私は新しい年に新しい道を探すことにした。
いつまでも過ぎたことに執着していても意味などない。
だからこそ進む。
己の心を、強く持って、大切にして。
◆
あれから私は宿に就職した。そこで毎日雑用をしながら日々を過ごしていた。掃除とか物の整理とかが主な仕事だったが、たまには料理もした。そうして忙しく過ごしていたそんな時、私は、たまたま常連客の一人に気に入ってもらえた。
「貴女と結婚を前提にお付き合いしてみたいです」
そう言われた時にはひっくり返りそうになったけれど。
「こんな私ですが……」
「お付き合いしていただけますか?」
「はい」
「ありがとう! 嬉しいです」
こうして人生がまた大きく変わり始めてゆく……。
◆
あれから数年、私は、あの時声をかけてくれた人と結婚した。
結婚を機に宿での仕事は辞めた。というのも、彼は裕福な人だったのだ。実家も裕福、自分も富を築いている、そんな人で。だから敢えて私も働く必要はなかった。
一方ルポトデッツはというと、あの後一人の女性と結婚したそうだ。
だが幸せにはなれなかった。
妻からそそのかされて一攫千金を狙って海の旅に出たそうだが、乗り込んだ船が沈み、冷たい海で死亡したようだ。
ま、もはやどうでもいいことだが。
彼は彼、私は私。
今や他人。
だから彼のことなんてどうでもいいのだ。
それよりも、自分が心地よく生きてゆくことに意識を向けようと思う。
長く幸せであれますように――。
◆終わり◆