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格闘家の血を引く私はずっと変わり者と呼ばれてきました。それによって婚約破棄もされました。ただ、幸せな未来は確かにあったようです。

 私の父親は格闘家だった。

 そして母親も格闘家に近いような職の人だった。


 そんな環境で育ったこともあって、私もまたそういうことに興味があって――小さい頃から周囲の女性たちとは違い、いつも戦って遊んでいた。


「あの子変わってるよね~」

「それな!」

「女の子なのに戦いなんて、ねぇ。あり得ないわぁ」


 周りからは色々言われていた。


 同年代の同性の子たちからは変わっているとか何とか言われていた。

 大人たちからは女の子らしくないとか何とか言われていた。


 でも私は正直あまり気にしていなくて。


 マイペース過ぎたかもしれないけれど、周囲からの声は気にせずやりたいことをやって歩んできた。


 そんな中で、知り合いの紹介で婚約した男性がいた。


 彼の名はドゥレット・プリズン。

 共働きの両親のもとで育った男性だ。


 けれども彼は私をあまり良くは思ってくれていなかったようで。


「悪いんだけど、価値観が違うので別れようと思う。今ならまだ間に合うから。ということで、婚約は破棄とします」


 ドゥレットはある朝私を呼び出してそう告げてきた。


「今までありがとう、さようなら」


 彼は丁寧だった。

 それはもしかしたら彼なりの誠実さだったのかもしれない。


 でももう終わるのだからどうでもいい。


 ……もはやあれこれ考えても無駄だ。



 ◆



 ドゥレットに婚約破棄を告げられた翌日のことだ。その日、私は少し散歩に出掛けていた。特に深い意味はなかったけれど、気分転換がてら。で、その最中に、私は凶暴な男に襲われていた一人の青年を助けた。


「大丈夫でしたか」

「あ……は、はい、ありがとうございます……助けてくださって」

「いえいえ」

「女性なのにお強いですね」

「家庭環境で……あはは、こんな感じになってしまったんですよ。野蛮ですよねー」


 少し冗談めかして言うと。


「いえ! かっこいいですよ!」


 彼はそう返してくれた。


 その瞳は輝いていた。


「強い女性! しかも正義の強さ! 素晴らしいと思いますっ」

「そ、そうですかね……?」

「そうですよ! 正義の味方、なんて、本当にかっこいいです! 憧れの存在ですッ!!」


 その後聞いた話によれば、助けた彼――ミツフォは昔から『正義の味方』に憧れていたらしい。

 ただ、子どもの頃はそうなりたいと思っていたものの運動神経が悪かったため上手くいかず、自分がそうなることは諦めていたそうだ。


「いやぁ、本当に、凄いです! 憧れます!」


 ミツフォは私に憧れの目を向けてくれる。

 そんな人は初めてだった。

 今まではずっと凶暴とか野蛮とか女らしくないとか言われてきた、だからこそミツフォは新鮮な存在であった。


「憧れるーって……また珍しいわね」

「そうですか?」

「ええ。だって私、ずっと、変わってるとか何とか言われてばかりだったんですよ」

「まぁ確かに、理想的なヒーローは滅多にいないですからね! 少数派ですよね」

「ヒーローって……」


 でも、彼には、純粋さと真っ直ぐさがあって。それは誰にも勝てないようなものだった。私から見れば、それこそがミツフォの魅力だ。彼は私に憧れてくれているようだけれど、私は逆に彼のそういうところに憧れを感じる。



 ◆



 あれから数年、私はミツフォと結ばれた。


 ちなみに今は子どもを腹に宿している。

 もうじき生まれるものと思われる。


 だから、ここしばらくは、戦わずじっとしていることが多い。


 妊娠中に格闘はさすがにまずい。


「もうすぐ赤ちゃん生まれそうですね」

「そうね」

「力になりますからね! 一緒に頑張りましょう! って、まぁ、自分は男なので何もできないんですけど……」

「いいえ、応援してくれるだけでも力になるわ」

「そうですか?」

「ええ、そうよ。寄り添ってもらえるだけで嬉しいの」

「なら良かったぁ」


 そうそう、ちなみに。

 ドゥレットはあの後ギャンブルにはまってしまって借金だらけになってしまったそうだ。

 彼は周りにすぐ「金を貸してほしい」と言って寄っていくそうで、それによって周りの人たちからは嫌われて縁を切られてしまったそうだ。


 そんな彼を、人々は『借金王』と呼んでいたらしい。


 何があったか知らないが――ギャンブルに溺れた彼に明るい未来は恐らくないだろう。



◆終わり◆

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