婚約者の母親が一方的に婚約破棄してきました。~よく分かりませんが私は去りますね~
「貴女ってひ弱よね。私の息子を護ってゆけるのかしら? ダメダメだと思うわ。ってことで、婚約は破棄ね!」
婚約者エルベグルスの母親がいきなり私の家へやって来てそんな風に言ってきた。
「エルベグルスさんも納得されていますか?」
「はぁ?」
エルベグルスの母親は少々性格に難のある人だ。
いかにも大金持ち、というような身形なのだが、外は綺麗に飾っていても中身は真っ黒けである。
まるで泥沼のような心の持ち主。
穢れを絵に描いたような女性だ。
「一番大事なのは本人の意思ですよね」
「なーによ生意気ね。貴女ってやっぱ馬鹿。呆れてしまうわ」
「質問に答えてください」
「何ですって?」
「婚約破棄、という話、エルベグルスさんもそれでいいと仰っているのですか」
婚約しているのも、結婚するのも、彼女ではなくエルベグルス自身だ。だからこそ、本人の意思はきちんと確認しておきたい。彼がそれを望んでいるのなら婚約破棄で構わないけれど、もし彼女が勝手に言っているのであれば大問題だ。
「ま、まぁね、そうよ! そんなものよ!」
「本当ですか?」
「当たり前じゃない! 婚約者の母親を疑うなんてっ……あ、貴女はっ……やっぱりどうかしているわ」
「そうですか、分かりました」
「分かったならいいわ」
「ではエルベグルスに確認してから婚約破棄を受け入れます」
すると急に焦り出すエルベグルスの母親。
「は、はぁ!? ふざけないで! 何を言っているのよ! わざわざ聞かなくていいでしょ!? 貴女みたいな人、息子にはもう二度と会わせないし触れさせないわっ」
――ああ、これは、勝手にやっているやつか。
エルベグルスの母親の様子を見ればすぐに分かった。
勘の鋭い人間ではない。
でも分かる。
彼女の顔色や言葉選びを見ていれば。
その後私はエルベグルスに連絡しようとしたが、やはり彼の母親に邪魔されてしまい、結局彼と直接話をすることはできなかった。
そしてそのまま婚約破棄となった。
◆
あの後、過去には縛られず、未来を見つめて歩いてきた。
そして良き人と巡り会う。
気の合う男性と知り合え、婚約し、もうすぐ結婚する予定だ。
彼に関しては両親もとても善良な人。
だからきっと幸せになれるだろうと思っている。
一方エルベグルスはというと、婚約破棄についてはやはり聞いていなかったようで、後からその事実を知って母親に対して激怒したそうだ。
エルベグルスは激怒して家出。
その後一連の話を聞いたエルベグルスの父親は「お前はなんてことをしたんだ!」と妻に対して怒り、離婚を決めたそうだ。
今、エルベグルスの母親は、一人ぼっち。
息子にも夫にも幻滅され捨てられたのだ。
ま、自業自得だな。
◆終わり◆