すべてにおいて平凡な女でしたが、意外なところで才能が花開き、富と幸福を得ることができました。
私は、すべてにおいて平凡な女だった。
美しい容姿とか、器用に家事をこなせる能力とか、愛想の良さとか、尽くす心奉仕の心とか――周りの女性は大抵何か秀でた部分を持っていた。
けれども私にそういうものはなく。
自慢できることはない。
認められることもない。
――それが私で、私の人生だった。
「ミリア、悪いが、君との婚約は破棄する」
そんな私が幸せになれるはずもなく。
ある日突然婚約者オッフォレオから関係の解消を告げられてしまう。
「世の女性たちはもっと華々しく活動していらっしゃる。しかし君はどうだ? 平凡なだけじゃないか。良いところもない、得意なこともない。そうだろう? そんな女を妻としたなら、俺までそんな人間かと思われてしまう。……それには耐えられない。よって! 婚約は破棄とすることにした!」
オッフォレオは私を切り捨てることに躊躇いを抱いてはいないようだった。
そりゃあそうか、こんな地味で平凡な私が愛されるはずがない――そう思いながらも、それでも、悲しさは感じていた。
彼を信じてきた。
だからこそ。
こんな結末になってしまって心が痛む。
「そう、ですよね……分かりました、では、私はこれで」
私がもっと優秀に生まれていたら、彼と結ばれる未来もあったのだろうか……。
もっとも、たらればなど考えても何の意味もないことだが。
◆
婚約破棄後、私は実家で一日中のんびりしているようになった。
しかしある時近所の子どもらに誘われて片足だけを地面につけて跳ねて動く遊びに参加して。
そこで才能が花開いた。
まさかの展開ではあったのだが――片足跳びが誰よりも上手かったのである。
「ねーちゃん、スゲー!」
「器用に跳ぶなぁ」
「世界チャンピョンなれるんじゃない?」
子どもたちは称賛してくれた。
それがとても嬉しくて。
私は毎日こっそりそれを練習するようになった。
――そして訪れた春、私は、国主催の『片足跳び大会』に参加する。
そこでまさかのいきなり優勝。
私の名は一気に広まって。
そこから、パッとしなかった人生は大きく変わってゆく。
私はいつしか片足跳び界のプリンセスと呼ばれるようになり、その世界での功績によって莫大な富を築くこととなった。
◆
――あれから三年半。
「ミリアさん! サインください!」
「きゃー! 生のミリアさんよ!」
「いやぁ素晴らしい女性だわぁ、見ていてとても愛らしいし」
「競技熱が凄いのよねっ」
私は今も片足跳び界で競技に打ち込みつつ生きている。
ただ、今は恋人もできた。
広く明かしてはいないけれど。
支えてくれる人がいる。
「お疲れ様!」
「今日もありがとう」
「どうだった?」
「サインたくさん書いたわ」
「おおっ」
「いつも本当にありがとうね」
彼は、恋人でありマネージャー的存在でもある。
私にとって特別な存在だ。
「じゃあそろそろ次の会場へ向かおっか」
「そうね」
「馬車はもう来てるよ」
「そう! 準備がいいのね」
「まぁ、前もって準備してあるからねー」
そうそう、そういえば。
私が有名になり出した頃、一度、オッフォレオから手紙で連絡があった。
何でも「やり直したい」というような話で。
私を褒め倒してもう一度婚約者同士になろうとしているようだった。
金が増えたからだろう、恐らく。
でも当然お断りした。
だってそうだろう? 今さら何、という感じだし。向こうの勝手で一度終わったのだから、もう一度、なんてあり得ない。そんなものに付き合うと思うか? 普通は思えないだろう。
で、その話はすぐに終わったのだが。
彼はその後私の親に嫌がらせを繰り返すようになった。親も最初は我慢していたようだが、その行為が酷くなり過ぎ、やがて通報したようで。逮捕され、彼は社会的に死んだ。
◆終わり◆




