婚約破棄してきた彼と、嫌なことばかり言ってきていた彼の母親と姉――皆揃って滅んだようですね。
「あんたってさぁ~、ほ~んと、クソだよね~。うちの息子に相応しい女って本気で思ってんの~?」
婚約者ブルグアイに呼び出され彼の家へ行ってみたところ、ブルグアイだけでなくその母親や姉たちも待機していた。
一番に口を開いたのはブルグアイではなく彼の母親だ。
「だとしたら、さぁ、だ~いぶ馬鹿だよね? あ~うけるぅ、笑えるわぁ。うちの息子はこんなに優秀で賢いのにさ~、あんたみたいなので隣に立てるって思ってるわけ~? ないわ~」
ブルグアイの母親はニンジンを前向けに生やしたような鼻が特徴的だ。
「ってことでさ」
切り出すのはブルグアイ。
「婚約、破棄することにしたから」
彼は重要なところだけを短くまとめて言葉にした。
「えっ」
「婚約破棄、ってこと。それだけ」
ブルグアイは不思議なくらい淡白だった。
「弟は優秀なのよ、あんたみたいな女にあげられるような男じゃないわ」
「それなぁ! マジそうなんですけどぉ。アンチャみたいな地味でロークオな女と親戚になるとかマジ無理ぃ。姉タンの言う通りだわガチで」
姉たちはそれぞれ嫌みを発してきた。
「そうですか。分かりました、残念ですが、それでは私はこれで去りますね」
こんな人たちとやっていく気はない。
私は虐められるために生まれてきたわけではないのだ。
「さようなら、皆様」
こうしてブルグアイとの縁は切れた。
◆
「何だあいつらあああああ! 腹立つわ! 何であんな嫌み大好きなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉッ!! あり得ねえええぇぇぇぇぇ!!」
ストレス発散といえばこれ。
木を切り倒す。
「どりゃあどりゃあどりゃあどるぅぉぅりゅあやぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
そう、これは私の仕事兼ストレス発散。
同時にできるなんて効率的だろう?
「殴ってやりてええええええ! でもやらん! だるいことなるからぁぁぁぁぁぁぁ! そこまで馬鹿ちゃうぞおおおおおっ! でも許してるわけじゃねえからなぁぁぁぁぁぁぁ! 後でぶん殴んぞ妄想の中でなああああああああ! 覚悟しろやあああああ!!」
――ふう、すっきり。
さて、家へ帰ろうか。
その数日後、木材屋の子息に見初められた。
「素晴らしい木の切り倒し方でした」
初対面でいきなりそう言われた時には驚いたけれど。
彼が惚れたのは、私の伐採が心地よかったからだそうだ。
かなり色々言っていたが……。
それも上品でないことを……。
でも、共に生きるなら、綺麗でない部分も含めて隠さないでいる方が良いのかもしれない。
「あそこまで怒鳴れるって才能ですね」
「は、はははは……そう、ですかね……ありがとうございます」
◆
あの後ブルグアイら一家はほぼ全員滅んだ。
ブルグアイはある晩昔の恋人に背後から襲われて死亡したそうだ。
何でも別れる時に揉めたことのあった人らしい。
恨まれていたのか?
だとしたら恐ろしいことだ……。
そして、ブルグアイの母親は、近所の人たちから仲間外れにされそのことに苦痛を感じていた時にたまたま夫から離婚を切り出され、衝動的に家近くの塔から飛び降り死を選んだそう。
ただ、彼女の亡骸は、百人規模で捜索しても見つからないままだったらしい。
さらに姉たちは二人で旅行に出掛けていた途中に爆破テロに巻き込まれて亡くなったそうだ。
◆終わり◆




