美男子だけれど女好きが酷い婚約者、妹が奪ってくれました。~どうぞどうぞ、貴女にあげますよ~
私の婚約者レヴィツィフは美男子だ。
けれども良い人かというとそうでもない。
なんせ彼は女好きなのだ。
毎週のように浮気を繰り返す。
婚約者がいてもなお。
確かに彼は人気の出そうな容姿の持ち主だ。周囲に女性が寄ってくるのは分からないではない。ただ、だからといってすべての女性に対応し恋人のように接するというのは、正直どうやっても良いこととは思えない。べつに脅迫されているわけでもないのだから一線引いておけばいいのに、と思ってしまう。
そんな彼を奪おうとする人が近くにも現れた。
私の二つ年下の妹エフィだ。
花のような容姿を持った彼女、見た目なら理想的な女性のようだが、甘やかされて育ったためにかなりのわがままである。
「お姉様、レヴィツィフ様とはどうなの?」
「どうって……まあ普通よ」
「そう。ま、燃え上がるような発展はないわよね」
エフィは欲しいものは何があっても手に入れようとするタイプだ。
彼女は今はレヴィツィフを狙っている。
きっとそうだ。
直接言われたわけではないけれど言動を見ていれば分かる。
姉として彼女をずっと見てきた私が言うのだから間違いはないはずだ。
◆
数ヶ月後。
「悪いけど、婚約破棄させてもらうね」
レヴィツィフが私のところへやって来て、珍しいなと思ったら、そんなことを言い出した。
しかも彼の隣にはエフィが立っている。
「レヴィツィフさん……」
「君より素敵な人に出会ったから、さ」
「エフィのことですか?」
「ああ、そうだよ。察しがいいね。なら話は早い、僕は彼女に乗り換えるよ。彼女の方が美しく可愛く忠実だからね」
「……そうですか」
エフィはやはり裏で動いていたようだ。
いつか予想していた通り、レヴィツィフは、知らないうちにエフィに奪われていたみたい。
けれどもそれでも構わない。
いや、むしろ、その方が良いくらいだ。
彼を奪ってほしいと少し思っていた。
「悪いわね、お姉様! こんなことになってしまって」
「いいのよエフィ」
悲しみはない。
辛さもない。
「幸せになってね」
ここは微笑んでやろう。
「……何よ、その言い方」
不快そうな表情を滲ませるエフィ。
「余裕ぶって裏で泣いてるんじゃないの」
私が冷静なのが気に食わないようだ。
泣いてほしかった?
絶望してほしかった?
残念でした。
私はこんなことでは心折れたりしない。
「じゃあこれで。行こう、エフィ」
「ええ!」
こうして独り身に戻った私だったが、婚約破棄されてから数週間が経った頃にその話を聞きつけて領地持ちの家の子息であるオドラッツという青年から婚約の申し出があった。
彼は学園時代少しだけ交流があった人で。
けれども卒業してからはまったくといってもおかしくないくらい関わっていなかった。
けれどもあの頃から私を想ってくれていたらしくて。
「オドラッツくん、本当に私でいいの?」
「もちろんっす」
「後悔しないでよ?」
「ええっ!? 何の話すか!? 後悔!?」
「だって地味でしょう、私。すぐに飽きるかもしれないわよ」
「そんなことないっすよ!」
数回会って関わった後、私は、オドラッツと婚約した。
「ずっと一緒にいたいと思ってるっす!」
◆
あれから三年ほどが経った。
私は今もオドラッツと夫婦のままで生きている。
つい先日第一子が誕生。
元から静かではなかったのだが、一人増えたことで、家がより賑やかになった。
「寝てない!? 大丈夫っすか!? 寝て寝て!!」
「無理よ、ちゃんと見ていないと……」
「見とくっすよ! だから一旦寝て! くまが凄いっすから!」
「……ごめん、なさいね」
「お任せあれ!」
育児というのはかなり大変だ。
けれども夫が協力してくれるから何とかやっていけている。
夫がオドラッツで良かった、いつもそう思う。
そうそう、そういえば、レヴィツィフとエフィは結婚して一年も経たずに離婚したそうだ。
レヴィツィフは結婚してからもいろんな女性に手を出したそうで、エフィがそれを咎めたところ大喧嘩になり――そういうことが繰り返された果てに離婚となったのだそう。
浮気され続けたうえ殴られもしたエフィは、男性不信になり、父以外の男性と関わることができなくなってしまったそうだ。また、徐々に自室にこもることが増え、今ではほぼ一日中寝ているといった日も増加しているそうで。かつての活発な彼女はどこかへ消えてしまったらしい。
一方レヴィツィフはというと、ある時十人と同時に恋人であるかのような行動をしていたことが女性らにばれてしまい、社会的に抹殺されたらしい。
彼は今、社会には出られない状態だそうだ。外へ行けば悪口を言われたり襲われたりするため、自宅にこもっているしかないようで。金を稼ぐことさえできないらしく。そういうこともあってストレスが溜まっている彼は、毎日のように親と喧嘩しているらしい。
◆終わり◆




