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私、色々あって聖女になりました! ~婚約破棄くらいでめげたりしませんが愚痴くらいは言わせてください~

「なぁ、あんたってさ」


 婚約者オドレイブンと彼の家の前にある庭でお茶を飲んでのんびりしていたら。


「何?」

「なーんか、パッとしねえよな」


 唐突によく分からない話を振られた。


 戸惑っていると。


「やっぱり、さ。夫婦になる二人、って、相性ってものがあると思うんだよな。生涯を共にするわけだろ? やっぱ、誰でもいいってわけじゃあないわけよ」

「何が言いたいの?」

「だから俺、あんたとの婚約は破棄するわ」


 それは、穏やかに晴れた日の午後。

 突きつけられた想定外の言葉に、私は何も言えなくなってしまった。


「あんただって俺といて楽しくなさそうだし、いいよな、終わりで。じゃ、そういうことなんで、お別れしよ」


 言葉を発せずにいる間にも話は進んでいってしまって――気づけば私は完全に婚約破棄されていた。



 ◆



「――ってことがあってさ」


 婚約破棄された翌日。

 親友に話を聞いてもらうべく一緒に近所の喫茶店へ行った。


 朝から晩まで一日中コーヒーの大人びた香りが漂っているこの店、私は嫌いじゃない。


「ええっ、何それ!! 急に婚約破棄してきたの!?」

「そうそう」

「あり得ない……」


 美味しい飲み物を飲みながら愚痴を話す。

 それだけでも少しは心が癒やされるような気がして。

 傷も心なしか浅くなるような、そんな感覚。


「ちょっとおかしいよ! オドレイブンさんだっけ? その男の人!」

「そうよね、驚いたわ」

「驚いたとかいう話じゃないって、あり得ないよそういうの!」


 そんな風にして親友に話を聞いてもらっていた時だ。

 突然一人の男性から声をかけられた。


「あのぉ……貴女、もしかして、聖女様ですか?」


 大きなサングラスをかけた小柄な男性。

 知らない顔だ。


「え? あの、何ですかそれ。意味が分かりません」

「聖女様ですよね?」

「本当に、意味が分からないのですが。私は聖女などではありませんし、そもそも、聖女とか何とか、それ自体も理解できません」

「やはり! そのお心の強さは! 間違いありませんッ!」

「ええー……」


 厄介なのに絡まれたなぁ、と思っていたのだが――その後彼が怪しい者ではなく王城からの遣いであることが判明した。


 聖女となれる女性を見つける。

 それが彼の仕事だったようだ。


「貴女は間違いなく聖女様です!」

「は、はぁ」

「この目が見つけたのです! 間違っているわけがありません!」

「そうですか」


 その後国王から有力な聖女候補であると認められた私は、教育を受けることとなり、特別な身分を与えられた――そして、第一王子との婚約も決まったのだった。



 ◆



 あれから数年が経ち、私は正式に聖女となった。


 私に与えられている仕事は国のために祈ること。

 この国に、この国の人々に、多くの幸福がありますように――そう祈りを捧ぎ続けることこそが私の役割である。


 そう聞くとパッとしない仕事のようでもあるけれど、私は、今のこの仕事を悪くは思っていない。


 祈る、なんて、非現実的で馬鹿げている。そう言われるかもしれないけれど。それでもこの仕事は一つの仕事。だから、私にできることであるなら望まれた通りその役目を全うしたい。


 ちなみに、第一王子との関係も良好なままである。


 彼とは既に夫婦となっている。

 でも今でも仲良くやれている。

 お互いにいろんな刺激を与え合い、笑い合って、時に協力して歩んでゆく――そんな関係を上手く築けていると思う。


 そうそう、そういえば、オドレイブンはあの後好みの女性を探すもなかなか見つけられずそのことにイライラしてやたらと酒を煽るようになり、その結果肝臓を悪くし亡くなってしまったそうだ。


 彼は亡くなる直前「あいつとあのまま結婚しておけば良かった」と呟いていたそう。


 でも、こちらは、お断りの気持ちしかない。


 妥協して私を選ぶ?

 いいえ結構。

 そんな意味で結婚してほしくなんかない。


 良い人が見つけられなかったから、みたいな理由で、私との道を選んでほしくないし――そんなのはお断り。


 私にだって感情はあるのだ。



◆終わり◆

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