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長い付き合いの婚約者が婚約破棄してきました。~その後彼は愛する人を護ろうとして死亡したようです~

「リベリー、悪いがもうお前を生涯の付添人とは思えなくなった。だから――婚約は破棄とする」


 驚くこと。

 想定していなかったこと。


 そういうことほど、ある日突然目の前に現れる。


「え。ちょ、待って。どういう話?」

「婚約は破棄すると言ったんだ」

「本気!?」

「ああ、本気だよ。俺たちの付き合いの長さなら、顔を見れば本気かどうかなんて分かるだろ」


 そう、私と彼ニルリッジは、出会ってから十年以上が経っている。


 だからお互いのことはよく分かっている。


 そして、確かに、今のニルリッジの表情は冗談を言っている時のそれではない――が、だとしても、あまりにも突然のこと過ぎてどうしても理解しきれない。


 喧嘩したことはあった。

 でもそれらは関係の解消にまで至るほどではなく。

 たとえ揉め事があっても最後には分かり合って。

 また笑い合える、爽やかな関係に戻ることができていた。


 だからこんなことになるなんて少しも思っていなかったのだ。


「分かったか?」

「……どうやら本気みたいね」


 ニルリッジと別れ、異なる道を行く。

 そんな未来は想像していなかったけれど。


 でも、彼がそれを望むなら、その方が良いのかもしれない。


「ああそうだ」

「でも……本当にいいの? すべて終わりになるのよ」

「いいさ」


 もしここで必死になって彼を捕まえようとしても、良い風には発展していかないだろう。


「そう。本気なのね。もしかして、好きな人でもできた?」

「いやそれはない」

「そう……だとしたらよく分からないわね」

「何だっていいだろ!」

「ま、そうね」


 結局、私たちの縁はここまでだったのだ。


 そう思えば話が早い。


「じゃあな、リベリー。さよなら」

「ええ。さようなら」


 別れしな、視線を重ねた。


 それが最期に彼を目にした瞬間となった――まさかそこまでとは思っていなかったけれど。


 ――婚約破棄の翌日、ニルリッジは亡くなった。


 少し前から裏で交際していた女性ミルリエ、彼女と共にその日も山道を散歩していたようなのだが。突如目の前に魔物が現れて。ニルリッジは、女性といたために逃げることはできず。魔物を撃退してかっこいいところを見せようとしたが、弱すぎて魔物を倒すことなどできなくて。その結果、ニルリッジは魔物に殺されてしまったようだ。


 その事件によって、彼に他の女がいたことが分かった。


 あまり知りたくなかった気もするが……。


 でも、なぜ彼が私との関係を終わらせようとしていたのかが判明したので、少々すっきりしたところもあった。


 ちなみにそのミルリエという女性は、ニルリッジより二つ年下で、丸い瞳と小柄さが小動物のようで特徴的な人らしい。


 この目で見たことはないが。


 でも、愛らしい雰囲気に惹かれたのだろうな、と想像はできる。


 そのミルリエだが、ニルリッジの死をすぐ傍で目にしてしまったために毎晩悪夢をみるようになってしまって眠れなくなり、今では四六時中ぼんやりしているような状態となってしまっているらしい。


 気の毒なことだが……他人の男に手を出したことへの罰と思ってほしいところだ。


 そうそう、私はというと。


 あの後はりねずみに似た善良な青年と巡り会え、短期の交際を経て、結ばれた。


 今は彼と共に生きている。

 この道はとても良い道。


 いつまでも、彼と、共に生きてゆきたい。


 それが私の今の気持ちだ。



◆終わり◆

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