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かつて歌を褒めてくれた婚約者、彼は女遊び好きでした。~婚約破棄でも何でも良いですよ、私は私の道を歩むだけです~

「君の歌はきっと多くの人たちに幸福を届けるよ」


 レッツフォンドとの出会いはある演奏会。

 その時はまさか彼と婚約するなんて思っていなくて。

 けれども歌を褒めてもらえたことは嬉しかった。


「素晴らしい歌い手だね」

「ありがとうございます」


 小さい頃から好きだった歌を褒めてもらえたことは何よりも嬉しくて――気づけば彼のことも好きになっていた。


 だから。


「僕と婚約してくれないかな?」


 レッツフォンドからそう言われた時、とても嬉しかった。


 まるで夢の世界に迷い込んだかのようで。

 不安な感じもあったけれど。

 それでも輝いている彼を信じて前へ進むことを選んだ。


 歌を褒めてくれた彼とならきっと幸せになれる――そう信じていた。


 その時は、まだ。



 ◆



「また女性と会っていたわね。それも、二人きりで」

「はぁ? 何だよ、うるせえなぁ」


 婚約してから数ヶ月が経った頃、レッツフォンドはやたらと浮気のような行為を繰り返すようになった。


 しかも、そのことについて話すと、急に感じの悪い態度になる。


「いちいち鬱陶しいんだよ、てめぇ、何様のつもりだ? あ?」

「どうしてそんな言い方をするの」


 出会った頃、彼はいつだって優しかった。それに、親しみを感じさせつつも丁寧に接してくれていて。だからきちんとした良い人と思っていた。


 でも本当は違った。


 彼は少しでも都合が悪くなると急に丁寧さがなくなるのだ。


「はぁ? そりゃこっちが言いたいわ! なーんでそんなあれこれ言われなくちゃなんねえんだよ!」

「女性と二人きりはやり過ぎだと言っているだけよ」

「あーあーあーうっぜぇ! なぁ! もういい、婚約なんざ破棄だ!」


 しかも急にそんなことを言われてしまって。


「婚約は破棄する! だから消えろ! 二度と俺の前に現れるな!」


 関係は遂に終わりを迎えた。



 ◆



 あの後、歌い手の道に復帰した私は、その道で成功を収めた。


 多くの仕事と良い評判を得て。

 富も得ることができて。

 そうして私は己の力でのし上がっていった。


 もちろん、多くの人の協力のおかげでもあるけれど。


 今はもうレッツフォンドなど見ようとしても見えない場所にいる。


 彼とあの時離れておいて良かった、そうでなければ今の私などなかった――そう考えると、私はこの道へ来たことを間違っていなかったのだと思える。


 一方レッツフォンドはというと、あの後も好き放題女遊びを続けていたようだが、やがて治す方法がない病気を貰ってしまったそう。


 で、日に日に衰弱してゆくばかりらしい。


 噂によればもうじき亡くなるかもしれないのだとか。



◆終わり◆

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