不運なことが続く日もあるものです。しかし、大抵そういう日の後には良いことが発生するという話も、あながち間違ってはいなかったようです。
「あれ……? 鳴らない?」
父の形見であるラジオが壊れた。
十年以上使ってきたなのに。
これまで故障なんて一度もなかったのに。
ある日突然、活動を停止してしまった。
まるで、あの日父が急死したのを再現しているかのように、いきなり息を引き取った。
◆
同日。
「貴女との婚約ですが、破棄させていただきます」
婚約者ブルトリッツに呼び出され彼の家の前まで行ったのだが、そこには、ラベンダーカラーの髪がガラス細工のようで美しい女性を隣に置いたブルトリッツがいて。
「今僕は彼女を愛しています。ですから、貴女との関係は解消します」
私はもう要らないの?
私は用なし?
……ラジオが壊れたこともあったせいか、泣きそうになってしまう。
今日という日はなぜこうも残酷なのか。
「婚約者さぁ~ん、ごめんなさいねっ? 奪ったみたいになっちゃって。でもぉ、あたし、奪ったわけじゃないんですよぉ? そもそも最初ブルトリッツ様に婚約者がいるなんて知らなかったんですぅ~。そ・れ・に! 先に惹かれたのはあたしじゃなくブルトリッツ様なんですよっ。だ・か・ら! 勘違いしてあたしを泥棒猫みたいに思わないでくださいねぇ~」
どうしてこんな辛いことばかり起こるのか。
「ではこれで。今から彼女と愛おしい時間を過ごしますので、さようなら。婚約者でなくなった貴女は速やかに去ってください」
私はただその場から去るしかなかった。
◆
あれから半年が経った。
私はもうすぐ結婚する。
もちろんブルトリッツとではない。
あの壊れてしまったラジオを修理してもらうために訪れた修理屋の若き店主オミエオ、彼もまた父を早くに亡くしていて。共通点が見つかった途端、私と彼は仲良くなり。そうして定期的に関わっているうちに、段々惹かれ合うようになっていった。
そして結ばれることとなった。
父の形見のラジオが壊れてしまったことは悲しかったけれど、結果的に良い縁を手に入れることができた。
闇の果てにある光を掴むことができた。
一方ブルトリッツはというと、あのラベンダーカラーの髪の女性と結婚を考えていたようだが、結婚直前に女性が馬車の事故で亡くなってしまったらしく――結ばれるという夢は永遠に叶わないものとなってしまったようだ。
そしてブルトリッツはその現実に耐え切れず精神が崩壊してしまったらしい。
今は親に面倒をみてもらっているようだが、かつての彼はもうこの世にはいないようなものみたいだ。
◆終わり◆




