裏がある婚約者は切り捨て、己の望む道を姉と共に進むのです! ~すべては自身の選択の結果~
クロワッサン職人の娘、次女として生まれた私は、子どもの頃から姉と共にたくさんのクロワッサンを作ってきた。
そして、成人年齢である十八歳となった日、自称お見合いおばさんの紹介で知り合った男性クルドッサンと婚約する。
しかしクルドッサンには裏があった。
表向きは良いような言葉をかけてくれていて紳士そのものだったのだが、私がいないところでは私以外の複数人の女性と仲良くしていたようで。
クルドッサンが女性数人といちゃついているところを私の同性の友人が目撃したことから、その事実が明るみに出た。
そして話し合いになる。
「クルドッサンさん……複数人の女性と仲良くしているそうですね」
「ああ、そうだよ? でもそれが何? べつに婚約を約束してるわけじゃないし、ただの遊び相手なんだけど」
急に感じの悪い言葉遣いになるクルドッサン。
彼には人の心がないのか?
そんな風に思ってしまうほどに。
彼は情のない目つきをしていた。
「すみませんが、そのような方とは結婚はできません」
「あーやだなー嫉妬深い女ってー」
「ですので、婚約は破棄とさせていただきますね」
「なっ!?」
急に青ざめるクルドッサン。
そこまでされるとは思っていなかった? だとしたら残念。私は貴方に惚れているわけじゃない。だから切り捨てることだって簡単だ。そんなことを言う勇気はないと思っていた? 舐めていたの?
「何を言い出すんだ! 急に! 君は!」
「私との婚約を破棄すれば、他の女性と自由に遊べますよ」
「ふ、ふざけるな!」
「ふざけていません、私は真剣に言っています」
「馬鹿なことを言うな! 婚約破棄など! そのようなこと! そこまでのことはしていないだろう!」
……婚約破棄されるのは嫌なのか?
「ということで、婚約は破棄といたします」
「ふざけるな詐欺師!」
「詐欺師? それはどちらかというと貴方のことと思いますが」
「何を言う! こんな誠実な男に!」
「誠実ではないですよ。他の女性と遊び回っている人は誠実な男とは言いません。言葉の認識を間違えているようですね」
「ぐぅっ……」
「そうでしょう」
「だ、だが、いいのか? 一度婚約破棄になった女、なんぞ、価値のないやつだと思われるぞ?」
それは理由によるだろう。
それに、たとえ事情を知らない誰かからそう思われたとしても、結婚して夫に浮気され続けるよりはずっとましだ。
「さようなら、クルドッサンさん」
「ま、待て! 話をしよう! もっと、落ち着いて!」
「落ち着いて? 私は今、冷静ですよ」
「君は混乱している!」
「混乱しているとしたら貴方ですね」
「くっ……」
「ではこれにて、さようなら」
もうこれ以上話をする気はない。
私は静かにクルドッサンの前から去った。
◆
あれからひと月ほどが経ち聞いた話によれば、クルドッサンはあの後婚約破棄されたことに関して友人らに笑われ色々言われてしまったために絶望し、『恥を晒して生きていくのは嫌だ』という書き置きを残して自ら死を選んだそうだ。
何もそこまでしなくていいのに……、と思いつつ、その話を聞いた。
けれども心は揺れなかった。
彼への感情はこの胸にはほぼなかったから。
すべては彼の選択の結果だ。
そして今、私はというと、姉と共に実家に住んでクロワッサン作りを手伝っている。
最近出した新商品――日替わりクロワッサン、それは、毎日違う味がつけられたクロワッサン。
それを考案したのは私だ。
ここのところそれが爆発的に売れているので、恐らく、この店は大きく発展してゆくだろう。
「今日も凄い売れ方だな!」
「姉さま、どのくらい売れたの?」
「百二十」
「午前だけで?」
「そう」
「おおー、なかなかの数ね」
「今日もさすがって感じだな」
少々男性的な喋り方をする姉とは一緒にいて楽しい。彼女と一緒にいればさっぱりした気分でいられるから。ねちねちした要素がないところが心地よい。
「そういえば今度大量の注文が入ってた」
「え! いくつくらい?」
「五百」
「えええー!?」
「さすがに驚くよな」
「また頑張って一気に作らないと……」
「増員しないとな」
「そうね! 頑張らなくっちゃ!」
私は姉と共にこれからもクロワッサンを作り続けてゆく。
◆終わり◆




