晩餐会にて婚約破棄されました。しかしその後意外なことに婚約希望者が殺到し……!?
「フィーナ・エルグリレッツ! お前との婚約は破棄とする!」
婚約者エッヅにそう宣言されたのは、ある晩餐会。
その時は何の前触れもなくやって来た。
「え……」
「婚約は破棄。そう言ったんだ。何をそんな、ぽかんと、馬鹿みたいな顔をしている?」
「い、いえ、その……婚約破棄だなんて、驚いて。本気なのですか」
「本気に決まっているだろう!」
「そうですか……分かりました。では私はこれで」
すぐに理解を示した私がよく分からなかったのか、エッヅは少々戸惑ったような顔をした――けれど、それも数秒だけで、すぐに普段通りの固めの表情に戻る。
「物分かりが良く助かる。ではそういうことなので、さらばだ」
彼は淡々とそう言った。
こんな形で婚約破棄されるなんて。これからどうしよう。また新しい相手を見つけるのも面倒臭いし。かといって候補となるような人が近くにいるわけでもないし。
そんな風に思っていたのだが。
「婚約がなくなったなら好都合だ! 俺と結婚してくれ! 実は前に中央公園で見かけてから気になっていたんだ!」
婚約破棄された途端、私との婚約を望む人たちが複数現れた。
「俺と共に歩んでくれ!」
その一人は、結婚式場の息子だが少々グレ気味な青年。
「俺を選んでくれたなら、結婚式だって特別料金でうちでやれるぜ? 驚くくらい安くできる! おとんもおかんも俺の結婚を待ってるからな!」
モヒカンなのが若干謎だが。
「おら、田舎から出てきて、あなたに惚れたんだす」
その中の一人は、どこかもっさりとした雰囲気だけれど笑顔が可愛い人。
「あなたと生涯を共にできれば……う、嬉しいんだすけど……」
地方からやって来たと話す彼は、照れ顔も愛らしい。
「僕と生涯を共にしてほしいと考えています。名乗り出るのには少々勇気が要りましたが、きっと貴女を幸せにします」
「わしと結ばれれば絶対幸福に生きられるぞ」
「あたしぃ、女と結婚しないと駄目って言われてるの。だからぁ、良かったら一緒に生きてくれない? 恋とかできないけど。でも、仲良くやっていくことならできるわ。苦労はさせないわぁ」
他にも、勉強一筋で地位を得た高学歴青年や東国にルーツを持つ資産が多い商売人の子や男性として生まれながら女性の心を持っているが結婚は女性とするよう親からきつく言われている人などからも申し出があった。
ああ、これはもう、どうすれば良いのか……。
選択肢が多すぎて困ってしまう。
ちなみにエッヅは、あの後家族旅行中に雪崩に巻き込まれ死亡したそうだ。
◆終わり◆




