婚約破棄されたうえ親に激怒され家から追い出されました。~それでも何とか前を向いて生きていきます~ (後編)
アップトルとやり直すことはできない。かといって家にいることもできない。そうなってしまった以上、誰かに援助を頼むことはできそうにない。ならば何とか自力で生きてゆく外ないのだろう。それ以外に方法はない。
絶望的な状況だが、ここで絶望していてはすべてが終わってしまう。
前を向こう。
◆
私はあれから植物の販売を始めた。
森に近いところの空き家を使って営業し始めた店は、最初こそお客さんはたまにしか来なかったけれど、次第に皆に知られるようになっていって。
ある時、国営新聞社からインタビューを受け、それを機により一層有名になった。
店が繁盛してきた頃、アップトルがやって来た。
「今なら認めてもいい。やり直そうか」
彼はそう言ってきたけれど。
「すみませんが、貴方と関わる気はありません」
はっきりと断った。
私に金が入った途端に近寄ってくるとは。
どこまで愚かなのか。
自分で切り捨てておいてまたすり寄ってくるなど、呆れるし、理解不能だ。
なんにせよ、かつて捨てた人と関わる気は一切ない。
そうして迎えたある平凡な日。
隣国の王子だという男性が従者を連れて店へやって来た。
「ここには珍しい植物があるそうじゃな」
「はい、ええと……貴方に気に入っていただけるかは分かりませんが」
「実はな、ここの茶を既に飲んでおるのじゃ」
「そうなのですか……!」
意外な展開だ。
「あぁ。とても渋く美味、気に入っておる。飲んでいると体調も良いしな」
「ありがとうございます」
「で、今日の用じゃが」
茶葉の購入だろうか?
でもそれなら彼は来なくても良いような気がするけれど。
買い物なら従者に任せていれば問題ないだろう。
「お主をいただきたい」
……はい?
彼アケボノがこの国へわざわざやって来た理由は、茶葉を買うことではなく、私を妻とすることだった。
「お主にはいつまでも良い茶葉を選び続けてほしいのじゃ」
「え……その、心の準備、が……」
「あぁよい、しばらくは待とう」
アケボノはにこっと笑う。
子どものような純粋そうな笑み。
案外可愛げがある。
「良い返事を期待しておるのじゃ」
想定外の展開となってきた。
が、彼のところへ行くのも悪くはないかもしれない。
少なくとも、実家へ戻るよりかはましだろう。
◆
そして私は彼についていくことにした。
「これから、よろしくお願いします」
「こちらこそ! よろしくの!」
どうなってゆくかは分からない。
でも未来に夢をみることはできる。
◆
あれから数年、私は今、二つの国を行き来しながらもアケボノの妻として生きている。
彼は私に自由を与えてくれた。他国へ行くことも許してくれたし、わりと好きなように振る舞わせてくれる。彼はとても寛容な人物だ。
今はとても充実していると感じる。
過去の悲しみはもう消えた。
私は前だけを見つめていられる。
ちなみに、アップトルはというと、私の悪口を言い広めたことでアケボノの怒りを買うこととなった。
とはいえいきなり手を出すアケボノではないので、彼は何度もアップトルに対して「妻を侮辱しないでほしい」と訴えていた。だが聞き入れられなくて。アップトルは必死になって私を貶めるようなことばかりするようになる。
そして、アップトルは誘拐された。
彼は牢に入れられ、拷問された後に、処刑された。
それとこれは昔の知り合いから聞いたことなのだが、私がアケボノと結婚したことを知った母親は「娘なのにどうして一人で嫁に行ってしまうのよ! わたしも連れていきなさいよ!」などと毎晩家の前で叫んでいたそうだ。
で、迷惑行為ということで、治安維持組織に拘束されたらしい。
◆終わり◆