魔法が使えたせいで婚約者に妹へ乗り換えられてしまいましたが、やがて、穏やかに暮らせる場所を得ることができました。
生まれつき魔法が使えた。
それは私に与えられた他人とは違う特別な才能。
けれどもそれによって救われることはなく、むしろ嫌な目にばかり遭っていたくらいで、だから私はこの力が嫌いだった。
だってそうだろう?
魔法の才能なんてなければ普通に生きられたのに。
魔法なんて使えなければ異端として皆から嫌な思いをさせられることもきっとなかったのに。
たとえ尊い力だとしても。
喜べるわけがない。
だってそれがあったために心を殴ったり蹴られたりしてきたのだから。
そして。
「ロロニア、君との婚約は破棄とする」
婚約者のエッヂでさえ、私の力を良くは思ってくれなかった。
「君には魔法の才があるのだろう?」
「はい」
「それが不気味で仕方がない、気持ち悪い」
「……悪いものではありません」
いつだってそう。
私の魔法の才能がすべてを奪ってゆく。
「だとしても、だ。君は俺たちのような平凡な人間とは違う、そういうことだ。人間とは己と異なるものを恐ろしく思うものなのだ。そして、俺も、君をこれ以上受け入れることはできない」
婚約者さえも、奪うのだ。
「ちなみに、俺は、今度改めて妹さんと婚約することになっている」
しかも、驚いたことに、エッヂの隣には妹がいる。
「そうなの! お姉様! 大丈夫よ、彼はあたしが幸せにするから!」
「ロロニア、君の顔は好きだった」
「だからあたしがお姉様の代わりに彼を幸せにするってことになったの! だからお姉様は心配しないで!」
――その事実がまた私を傷つけた。
「ロロニアの顔で魔法を使わない女、それは何よりも理想的だ」
「お姉様は魔法でも使ってのんびり生活していればいいのよっ」
私は幸せにはなれないのか?
魔法の才がある限り永遠に?
……いいえ、きっと幸福になってみせる。
そう言いたいけれど。
でも難しい。
そんな難易度の高いこと、どうやってもできる気がしない。
ただ、それでも私は生きていくしかなくて。
私はまた朝を迎える。
◆
思えば、あの婚約破棄から二年が経った。
時の流れとは早いものだ。
そして忙しかったからなおさら。
「じゃ、冷却しておいてくれ、頼むぞ」
「はい!」
「前言った通り、二段階で冷やすように」
「分かりました!」
私は今、魔法の研究をしている人のもとで暮らしている。
厳密には結婚はしていない。
けれどもうずっと一緒に暮らしている。
同棲のようなものだろうか。
法的な結びつきがなくても、私たちは確かにパートナーなのだ。
「あ、そうだ、この前のアレは冷やせてるか?」
「はい。あの戸棚に入れて置いています」
「そうか、分かった」
ここでなら魔法を使っても嫌われはしない。
だって彼も魔法使いだから。
ここで生きている限り、私はもう異端ではない。
「出しますか?」
「いや、いい。自分でやる。熟成はそろそろ良さそうな時期だな?」
「そうですね」
「じゃ、出してくる」
「段をずらさないよう気をつけてくださいねー」
ここは、私の初めての居場所。
「お! できてそうだな! ロロニア、後で味見してみてくれ」
「味見!」
「嫌か? もしなら考えるが――」
「しますっ!」
「うお」
「味見ならお任せくださいっ」
「おお、やる気だな」
「食べてみたいなーって思っていたんです、実は」
「そうだったのか」
ちなみにエッヂと妹はというと、あの後、結婚までいくも喧嘩別れすることになってしまったそうだ。
「じゃあ切り分けておく」
「はい」
「そこで食べるか?」
「ええと……でも、手が離せません」
「なら持っていく」
「いいんですか!?」
「どうなっているか情報が欲しいからな、そのためなら何でもしよう」
顔しか見てもらえないことに苛立った妹が口調を強めることで喧嘩が勃発する、というのが、いつもの流れらしい。
で、ある時殴り合いになったそうで。
それから非常に気まずくなってしまい、関係を上手く修復できず、離婚したそうだ。
妹はそれ以降男性が怖くなり、父親は何とか大丈夫らしいがそれ以外の男性に近づかれると奇声を発するようになってしまったそうだ。で、それゆえ、もう婚約も結婚もできず。今後のことに関して話を進めることがまったくできないという状況に陥ってしまっているらしい。
そしてエッヂはというと、離婚後しばらく酒を大量に飲むようになり、その結果肝臓の状態が急激に悪くなってしまったそう。で、体調不良や症状に襲われ、今ではかなり大変な状態となっているらしい。
◆終わり◆




