私は、恋も愛も信じない。――そう思っていたのに。~意外なところから関係は始まるものですね~
私は、恋も愛も信じない。
「君みたいな堅物とは一緒にいても楽しくないよ。てことで、俺はもっと俺に相応しい可愛い女性と一緒になるから。婚約は破棄な!」
かつて婚約者だった彼フォードレイにそう宣言されたあの日、私は心を失った。
その日までの私はそれなりに心を持った女だった。フォードレイのことは好きだったし、共に歩みたいとも思っていた。そういった感情すべてを否定するような人間ではなかったのだ。
けれどもあの日の彼の目つきを見たら、もう二度とこんな世界には足を踏み入れたくないと強く思って。
それから私は仕事に生きることにした。
「こちらの書類なのですが……」
「ああそれ。受け取っておきます」
「本当ですか!」
「私が処理しておきますね」
今は城内で働いている。
主に事務作業をこなしている、そんな日々だ。
「いや~、貴女は本当に有能ですね! 尊敬しますよ~」
「いえいえ」
愛する、とか、愛される、とか、そんなものはここでは関係がない。ここでは働くことさえできれば生きてゆける。仕事さえある程度まともにこなしていれば居場所がある。
愛される能力が低い私でも、ここでなら生きてゆける。
「ところで、ご結婚とかは? なさる気はないですか?」
「そうですね……今のところはまったくありません」
「そうですか~」
「なぜ問いを?」
「あっ、い、いえ! 何でもないんです! 嫌な思いをさせてしまっていたらすみません! では作業に戻ります~っ」
フォードレイはあの後一人の女性と結婚。しかしいざ夫婦になると関係性は一気に悪化してしまったようで。小さなことで喧嘩を繰り返す日々へと突入してしまい、やがて離婚となったそうだ。
また、離婚の話し合いの最中に少々感情的になってしまったフォードレイは女性を二発殴ってしまい、それによって彼は罪人となってしまったらしい。
今は強制労働で償っているところだそうだ。
そんなくだらないことで人生の何年もを無駄にするなんて、気の毒に。
私はこれからも仕事に生きてゆく――迷いなくそう思っていたのだが。
「あ、あの! ずっと好きでした!」
「え……」
ここへ来て初めてできた部下であった五つ年下の青年。
彼がある日急にそんなことを言ってきた。
隠していた心を気持ちを口から出して明かしてきたのだ。
「なに、言って……」
驚きは大きくて。
でもなぜか嫌な気はしなかった。
私は、恋も愛も信じない。
そう誓ったのに。
「ごめんなさい、迷惑だって分かってます。貴女がそういう人をお作りにならないことは知っていますから……でも! 気持ちだけはどうしても伝えたくて! ですからどうか、気になさらないでください……」
申し訳なさそうな顔をする彼を見ていられない。
自分のせいで彼がそんな顔をしているのだと思うとどうしても罪悪感が生まれてしまう。
「待って」
けれど、彼は、真剣に想いを伝えてくれた。
ならば私も真剣の返さなくてはならない。
たとえどんな答えだとしても、きちんと対応するのが礼儀というものだろう。
「え? な、何でしょう?」
目をぱちぱちさせる彼はまるで子どものよう。
「それって、本気で言っているの?」
「は、はい! もちろんですよ!?」
彼は何度も頭を縦に振った。
「その……気持ち嬉しいわありがとう」
「えっ」
「すぐには答えられないけれど、その……少しだけ、待ってもらっても?」
「ええ!?」
「何よ」
「もしかしてオッケーとか!?」
「少し考えさせて、と言っているでしょう」
「そっそうですよねっ、浮かれてすみませんっ」
こうして新しい一歩を踏み出す――ことになるかもしれないなんて、人生とは不思議だ。
◆終わり◆




