酒と女に溺れ仕事場へ行くことすらしない夫とは離婚です。~そして私は新たな幸福を掴む~
濃紺の髪と藍色の瞳を持ちそれらが美しいと女性陣から人気の高い青年クロム・フィフズ――彼は私の夫だ。
結婚する前、結婚した直後、彼は良きパートナーだった。
しかしなぜだろう。
いつからか彼の様子が不自然なものに変わっていって。
あまりにおかしいので調査をしてみたところ――彼が毎日仕事にも行かず酒場で酒に溺れていることが発覚した。
しかも、だ。
酒場ででろでろに酔っ払っては女漁りをしているのである。
妻として許せることではない。
だから証拠をある程度集めてから話をすることにした。
「ねぇクロム、今日は何の話をするために呼んだか分かる?」
「う~ん……心当たりはないなぁ」
本当はこんなことしたくなかった。
問い詰めるようなこと。
彼が真面目に生きていてくれたなら、こんなこと、しなくて済んだのに。
「最近の仕事について聞きたいのよ。どう? 最近は」
「えっ、え、え、えっ、え、え」
「順調? 前はよく仕事の話も聞かせてくれていたでしょう、でも最近はあまり聞いていないなって思って。よかったら少しでも聞かせてくれない?」
それから私は片側の口角を持ち上げて。
「行っていないのでしょう? 仕事」
青ざめるクロム。
その前へ、朝から酒場入りする彼の姿を捉えた写真を出す。
「一日中酒を飲んでいたのでしょう」
「う……ち、違う! 勘違いだ! この日はたまたま、ちょっと、仕事の内容で酒場のおばちゃんに聞かなくてはならないことがあって……!」
「でも一日だけじゃないわよね?」
「この日だけ! だよ!」
「そう……嘘はついていないわね?」
「もちろん!」
「残念だわ」
残念ながら証拠は他にもある。
彼が朝から酒場へ行っている写真は一枚だけではない。
「嘘つきとはやっていけない。離婚よ」
「ええっ」
「だってそうでしょう? 嘘をついてばかりの人と生涯を共にするなんて無理よ。すべてにおいて信頼でいないもの」
「待って! 待って待って待って! 話を勝手に進めないでよ!」
「偉そうなことを言わないで、貴方にそんなことを言う権利はないわ」
私はもう彼とは生きてゆかない。
彼が何を言ったとしても、だ。
今の私はもう彼を信じられないから、何をどう言い訳されたとしてもその言葉を事実として受け入れることはできない。
できるなら、穏やかだったあの頃に戻りたい。
けれどもそれは叶わない願いだ。
「さようなら、クロム」
幕は下りたのだ。
◆
あれからどのくらい時が流れただろう。
私は先日久々に恋人を作った。
仕事場で共に働いていた人と仲良くなってのことだ。
「結婚願望とか、あります?」
彼とは一緒にいるだけでほっとできる。
傍にいたい、そう思わせてくれる人に巡り会えて、私としてはとても嬉しい。
「私は一度離婚しているので……」
求めているのは刺激的な恋ではない。
「それは関係ないですよ! しかも、相手に非があったのでしょう?」
「そうでしょうか」
「そうですよ! 相手に非があったのでしょう!?」
「そうです、彼が仕事をさぼって酒に溺れて」
「なら貴女は何も悪くないのです。ですから、二度目の結婚だって、無しではないですよ」
これは親から聞いた話なのだが、クロムはあの後酒の飲み過ぎで肝臓を悪くしてしまい余命を告げられ、その事実に耐えられず自ら死を選択したそうだ。
元夫といっても今は他人。
特に何も思わない。
「あの……実は、話があるんです」
「何でしょう?」
「よければ貴女と……将来を、共に、したいのです」
私の人生はクロムに縛られ続けるものではない。
未来はいつか見える。
その時がいずれ来る。
――もしかしたら、それが今なのかもしれない。
◆終わり◆




