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婚約者の彼、本当は、私ではなく妹が良かったそうです。ということで、彼との婚約は破棄になりました。

 私には婚約者がいた。

 彼の名はウォリス。

 私たちは特別深い仲ということはなかったけれど、関係が悪いものかというとそうでもなく、それなりに良い関係を保てていた。


 だが、婚約から数ヶ月が経った頃、私は知ってしまう。


 ウォリスが私の妹であるルルナと毎日のように二人で会っていることを。


 私は彼にその話を振った。

 何がどうなっているのか知りたかったのだ。


 だがそれが彼を激怒させてしまった。


「はぁ!? 悪いのかよ!?」


 こちらは落ち着いたトーンで話している。

 なのに彼は怒る。

 それが理解できない、なぜそうなるのか。


「ですから、その、説明を……」

「あーもーうぜぇな! でもまぁいい、この機会に言ってやる」

「はい」

「お前との婚約は破棄する!!」

「ええっ」


 私はただ説明してほしかっただけ。

 でも切り捨てられてしまった。

 彼にとって私は既に不要なものだったのかもしれない。


「俺はなぁ、お前よりルルナの方が良かったんだよ。だっさいお前よりルルナと婚約したかったんだ、本当は、な」

「そうでしたか……」

「そうさ。でもこれまでは我慢してやってきた。だが! ルルナと会うことすら許さねぇと言われるなら! もう我慢はできねぇ! そんなこと言われるくらいなら、お前との関係なんて終わりにしてやるっ!!」


 ウォリスは熱く語り、それから静かに「じゃ、そういうことだから、出てってくれ」と呟くように言った。


 私とウォリスの婚約は破棄となった。


 そしてその数日後、妹ルルナが周りに相談もせず勝手にウォリスと婚約した。


「ちょっと、ルルナ、あまりに勝手よ」

「姉から奪うのか!?」


 両親は私の味方をしてくれ、ルルナを責めた。

 するとルルナは「こんな面白みのない家、出ていく」と宣言。

 ウォリスと生きていく、そう言って、去っていった。


「何なんだあいつは! 勝手過ぎる!」

「育て方を間違ったかしら……」


 父母は身勝手なルルナに怒っていた。


「いや、君のせいじゃない。私も駄目だったんだ、きちんと見ていなかったから」

「お姉ちゃんがいてくれて良かったわね」

「ああそうだな」

「今日をもって、あの子とは縁を切りましょう」

「そうだな、そうしよう。ルルナはもううちの娘ではない」



 ◆



 数ヶ月後のある朝、ルルナが泣きながら帰ってきた。

 着ていったはずの美しい衣服は身につけていない。

 まとっているのは土のような色のぼろぼろの穴だらけの布切れだけだ。


「おかあさまぁ……おとうさまぁ……助けてください……」


 ルルナの話によれば、ウォリスと二人で暮らすようになってから毎日のように「家事もまともにできないのろま」と侮辱されるようになり、さらには殴られたり蹴られたりもするようになっていったらしい。また、二人で暮らすためにルルナが持っていった服やアクセサリーはウォリスに勝手に売られ、それによって入ったお金は彼が呑む酒を買うために当てられたのだとか。


「ルルナはもううちの娘ではない、来るな」

「面白みのない家なのでしょう? よそへ行けばいいじゃない、ここはもう貴女の実家ではないわ」


 両親はルルナを追い返した。


 ――それから数日が経った朝、彼女は、実家近くの山中にて亡骸となって発見された。



 ◆



 あれから数年が経ち、私は結婚することになった。

 結婚式は盛大に執り行われて。

 祝福の渦の中、私は、愛する人との一歩を踏み出せることとなった。


 ここへ来るまで色々あった。主にウォリスとルルナ関連で。嫌なこと、胸が痛いこと、主に負の意味で色々あった。けれどもそれを越えた先にこの幸せがあったのだから、あの嫌な出来事たちも無駄ではなかったのだと今は思えるようになっている。


 これからは夫婦で前を向いて歩いていこうと思う。


 そうそう、そういえば。


 ウォリスはあの後酒の飲み過ぎで臓器を悪くし、同居している親から酒を禁止されてしまったそうだ。で、そのことに苛立っていたある晩、彼はちょっとした口喧嘩の最中衝動的に母親を殺めてしまったそうで、それによって人殺しとして牢に入れられることとなったらしい。


 彼は今も生きているようだが、それはそれは惨めな暮らしをさせられているそうだ。


 労働力を搾り取られる日々。

 自由などありはしない。

 朝から晩まで奴隷のように使われるだけの人生。


 可哀想に。


 でも、すべては彼の行動が招いたことだ。



◆終わり◆

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