婚約破棄されたうえ親に激怒され家から追い出されました。~それでも何とか前を向いて生きていきます~ (前編)
私はそこそこ良い身分の家に生まれた。
そう言うと幸せな人のようにも思われそうだが、案外そうでもない。
いや、貧しさに喘ぐことになるよりかはずっと良いのだろうけれど。
でも、良い身分として生まれたからこその大変さというものがあることもまた、一つの事実である。
アップトルという青年と婚約することになったのも、この家に生まれたから。彼に対して特別な感情があったからではない。流れのままに彼と結ばれることを求められ、気づけば婚約者同士になっていた。
しかしその関係は。
「君との婚約なんざ破棄だ」
たった今、壊れてしまった。
「え……あの、本気で仰っていますか……?」
「当然だろう! 今朝決めたんだ!」
ええ……。
急にもほどがある。
婚約破棄とは人生における重大なこと。
もう少し慎重に落ち着いて考えなくてはならないのではないのか。
それに手続きなんかもあるのではないのか。
「親に言われて君と婚約したが、やはり心に嘘はつけない。だから君とは生きないことにした。いいな? 今すぐここから去ってくれ。これで終わりにしよう」
「ええと、それはさすがに……」
「うるさい! 女は黙って従ってろ!!」
心の中で溜め息をついてしまった。
一方的に婚約を破棄する立場でありながらどうしてそこまで高圧的になれるのか、謎だ。
こうして唐突に切り捨てられることとなった私は実家へ帰るのだが、それが地獄の入り口だった。
「はぁ!? 婚約破棄されたですって!? 何を言い出すの、何をやらかしたのよ!!」
気の強い母親は激怒。
鋭く高い声を発し続ける。
彼女の怒りの矛先は私へ向いていた。
「あなたが馬鹿だから婚約破棄されたんじゃないの!? これだからあなたって人は! あぁもう恥ずかしいじゃない、わたし今日から道を歩けないわ。全部あなたのせいよ! 愚かな娘を持ってしまった恥ずかしさを経験させるなんて……あなた、最低!! あなたさえいなければわたしはこんな惨めな思いをせずに済んだのに!」
そこまで怒らなくても、と思うのだが、恐ろしくてそんなことは言えない。
「あなたが娘だからわたしまでこんな思いをしなくてはならない! これは地獄よ! あなたのせいでわたしは地獄の苦しみを味わっているの、分かってるの!?」
もういいよ……。
しつこいよ……。
それからも二時間以上説教され、最後には「もうあなたはわたしの娘ではないわ! 出ていきなさい!」と言われ家から追い出された。
理不尽過ぎる……。
ほぼ何も持たない状態で家から出ることとなってしまった。
今の私には何もない。
衣服と少しの荷物くらいしかない。
これからどうすれば良いのだろう。
何かやらかしたわけでもないのに、一日にして居場所を失ってしまった。
取り敢えず家から離れよう。
そう思い、歩き出す。