疑り深い性格の婚約者に監禁されていましたが、昔の記憶を思い出してあることを試してみたところ……?
それは遠い過去の記憶。
「ねえ、あれなぁに?」
「流れ星よ」
「ながれぼし?」
「そうよ、あれに向けて願いを何回か発すれば願いを叶えてくれるんですって」
母と二人、夜空を見上げて。
いろんなことを教わった。
楽しいこと、夢みたいなこと、この世の不思議なこと。
「いつか試してみて?」
「ふぅん」
「流れ星はきっとエリシナを救ってくれるはずよ」
「そっかぁ。うん! いつか試してみるね!」
◆
あれから十年以上が経った。
私は今、婚約者ルロレの手によって彼の家の一室に監禁されている。
「エリシナ、今日の食事だよ」
「ルロレさん……」
「はい! スープ! 美味しいよ」
「ありがとうございます……」
ルロレは私を殺す気はないようだ。
いつも美味しい食べ物を持ってきてくれる。
ただ、私が浮気するのではないかと強く疑っていて、この部屋から一歩も出してはくれない。
もちろん私は浮気など一度もしたことはないのだが。
そんな事情もあって、今の私の世界は、この部屋の中と小さな窓から見える外だけ。
生きていくうえで大きな問題はないけれど、こんな狭い世界で生涯を終えるとなるとさすがに辛い。
だから私はある晩願った――夜空を駆けてゆく流れ星に。
『自由になりたい』
そんな風に。
すると驚いたことに、突然信じられないくらいの威力の突風が吹き。
「え――」
気づけばルロレの家は倒壊していた。
私は無傷だった。
何が起きたのか分からなかったけれど。
でも私は走り去った。
「待って! エリシナ!」
ルロレの声が聞こえた気がした。
でも振り返らない。
もう二度と彼のもとへは戻らない、その覚悟で、彼から逃げたのだ。
その後親に事情を明かして相談し、ルロレとの婚約は破棄としてもらった。
「母さんが昔言っていたこと、本当だったわ」
婚約破棄手続きも終わり、少し落ち着いた夜。
私はそんな風に切り出す。
「え? 何の話?」
こうして母の顔を見ることができているのも流れ星が願いを叶えてくれたおかげだ。あのままだったらきっとずっと母にすらまともには会えなかっただろう。もしかしたら検閲ありで手紙のやり取りくらいはできたかもしれないけれど、それすらもなかなか難しいことだっただろうし。
「流れ星」
「ああ、それね」
「流れ星が願いを叶えてくれて――それで脱出できたの」
「そうなの!?」
あの時の話、きちんと聞いて覚えておいて良かった。
「母さん驚き過ぎ」
こんな形で役立つなんて。
「ああいえでも……まさかそこまではっきり願いを叶えてくれるとは思わなくて……」
「あれは本気で言っていたわけじゃなかったの?」
「あくまで言い伝えだったから……」
「そうだったんだ」
ちなみにルロレはあの突風で倒壊した家の瓦礫の下敷きとなり落命してしまったそうだ。
とても悲しいことだ。
あんなことで命を失うなんて。
でも、彼に追い掛け回される可能性がゼロになったと思うと少し嬉しくもあった。
◆
あれから数年、私はとても気の合う同年代の男性と巡り会い、結婚にまで至った。
今は愛する人と共に生きることができている。
彼は私を監禁したりしない。
何もやらかしていないのに過剰に疑ったりもしない。
親友のように、パートナーのように――穏やかな心で共に歩んでいける今に感謝したい。
◆終わり◆




