絶望の中で聞いた謎の声、そして復讐は果たされたのです。~私は光ある未来へと進みます~
「君みたいな女は何の価値もない、だから婚約は破棄とする」
婚約者ヘップリバーン・オッズ・フォン・ベルリガルムーンから関係の終わりを告げられ、衝動的に逃げ出してきてしまった。
雨降りの中を全力で駆ける。
泥に足を取られそうになりながらも。
逃げるように走る。
脳内ではずっとヘップリバーンにかけられた言葉が繰り返している。そう、「君が顔だけだとは思わなかったよ」とか「もっと奉仕的な女性と思っていたのに残念だよ」とか「君みたいな女はもっと下の階級の男を選んだ方がいいよ」とか。そんな心ない言葉ばかりが脳内を巡る。彼との楽しかった時間も確かにあったのに、今はもうそんなものは黒いインクに掻き消されてしまって思い出せない。
「あっ」
小石に引っかかり、転倒する。
泥に似た形状となった土が服を汚す。
けれども不快感はない。
それ以上の悲しみがこの身に沁みついているから。
もはや他のことは何も不快ではないのだ。
もう立ち上がる元気はなく――ただ涙を流すことしかできない。
そんな時。
『酷いわね』
どこかから声が聞こえた。
知らない女性の声。
辺りを見回してみる。
でも誰もいない。
『貴女はあのままでいいの? あの男を許せるの?』
脳に直接響いてくるような声。
「……許せ、る、わけない」
私は問いへの答えを絞り出す。
「許せるわけがない!!」
誰もいない森の中で叫ぶ。
ここでならどうせ誰の耳にも届かないだろう。
ならば言ってしまいたかった。
すべて吐き出してしまえば少しは楽になれるようなそんな気がして。
『そう……ならば、貴女の望みを叶えましょう』
「え」
『貴女は家に帰りなさい』
雨粒が地面を叩く音、森の木々が揺れる音、それらしか存在しないその場所で私はゆっくりと立ち上がる。
「帰ろ」
翌日、ヘップリバーンの死を知らされた。
何でも、郵便物を取りに行こうと家から出たきり、戻らなくなったそうだ。どこかへ歩いていっていたというような目撃情報はなく、しかし、朝になると亡骸が家の前に置かれていたそうで。それによって彼の死亡は確かな情報となったようだ。
何があったのだろう?
もしかして、あの時の声の主が何かしたのだろうか?
……少々非現実的ではあるけれど。
でも、あんな会話があった後だから、どうしてもそれを考えてしまう。
◆
あれから三年、私は今日愛する人と結ばれる。
「わぁ! 美しい衣装ね!」
「ありがとう母さん、でも……ちょっと、恥ずかしいわ」
「最高よ! 美しい! 自信持って!」
「う、うん」
悲しみも、絶望も、いつかは過ぎ去る。
そして新しい未来へ。
希望あるこの先へ。
「貴女みたいな娘を持てて誇らしいわ」
「母さん……ありがとう、本当に」
さぁ、進もう。
◆終わり◆
 




