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婚約破棄され、思い出すこと。
今朝、婚約破棄を告げられた。
その言葉は驚きほど唐突に私の前に現れて、私の中の特別なものを奪っていった。
そして今、夜の静かな湖畔にて、これまでのことを思い出している。
それは婚約者だった彼とのたくさんの思い出。彼と出会ってから、これまで、いろんなことを経験してきた。怒ったこともあったけれど、笑い合えることも少なくなく、喧嘩の後に楽しく喋れるようになった時には嬉しかった。いろんなことが積み重なれば積み重なるほど、彼は私の中で特別になっていったのだ。
二人で湖を見たこともあった。
あの時はちょうど過ごしやすい時期で、爽やかな空の下、二人で軽やかに歩いて……。
思い出せば思い出すほどに切なさを感じる。
思い出は確かにこの胸の内に在り、しかしそれを語らうことはもうできない。
言葉にできない切なさと虚しさが宿る。
けれども、いつかは立ち上がらなくてはならない。
人生が終わらない限り。
目の前の道は続いてゆく。
夜が明ければ、立たなければ。
悲しみも、切なさも、後悔も、振り払って。
◆終わり◆