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無能? ま、そう思うならそう言っていれば良いではないですか。後になればすべて分かって後悔することになるでしょうけどね。じゃ、さようなら!

 ソレッド王国の王子アイレス・ソレッドと婚約していた私エリーミレはその日彼から直接告げられてしまう。


「エリーミレ! お前のような無能はこの国には要らない! よって、お前との婚約は本日をもって破棄とする!」


 私には魔術の才があった。

 それは生まれつきのもの。

 その才能を国王に認められて、私はここへやって来た――そして、将来国を護るために王子の婚約者となったのだ。


 けれどもアイレスは納得できなかったようで、これまでも、ずっと冷たくされていた。


 だから驚きはあまりない。


 それに、アイレスには、私ではない愛している女性がいるのだ。

 ローズカラーの口紅がよく似合う女性オクリファ、彼女こそがアイレスに誰よりも愛されている人だ。


「お前は魔術の才があるそうだが、今のところまったくもってその様子が確認できない」

「今は平和ですので……」


 私の魔術の才は国を護るためにある。


 それはつまり、この国に危機が迫った時にしか役に立たないということだ。


 平常時、現在のような平和な時には、特別何もできることはない。


 国王とてそれは分かったうえで私をここに据えているのだ――いつか来る未来の危機に備えて。


 しかしアイレスにはそれが理解できないらしい。


「ああ、それはつまり、お前みたいなやつは要らないということだ」

「平和なうちは、ですね」


「ふざけたことを言うな! どうせ! お前みたいな性格最低女は才能だって無なのだろう! どうせ父を騙している詐欺師なのだろう!?」

「それはありません、すべて事実です」


 アイレスは私の才が偽りのものであってほしいのだ。そうすれば私を批判されず捨てることができるから。そして、それは同時に、オクリファと結ばれるという最終目標への道が作られることでもある。


「ならここで使ってみせろよ! 魔術を!」

「……貴方を仕留めるために、ですか?」

「は、はぁ!?」

「ふふ、冗談です。ですが婚約は破棄ということで承知しました。では私はこれで去りますね。さようなら」


 私は粘ることはしない。

 彼の前から去る道を選ぶことにした。



 ◆



 あれから三年。


 はっきり言うと、ソレッド王国は滅んだ。


 婚約破棄の後、国に魔物軍による侵攻という危機が訪れ、それに対応しきれず国が崩壊してしまったのだ。


 私がいれば少しは何かできただろうに――そう思いはしたけれど、心の中には『ま、自業自得よね』と思っている自分もいて。どうしても、真っ直ぐな意味で同情はできなかった。ざまぁ、と思ってしまう要素があったのだ。もっとも、罪なき一般国民たちのことに関しては、愚かな上のせいで酷い目に遭ってしまって可哀想だと思うけれど。


 そして、その渦の中で、王子アイレスは処刑され死に、オクリファは拘束され魔物軍の者たちに従うしかない奴隷とされたそうだ。


 ちなみに私はというと、侵攻の直前家族で隣の国へ引っ越していた。

 そのため家族三人無事だ。

 あの災難には巻き込まれなかった。


 最近は趣味であるハーブ栽培に打ち込みつつももうじき結婚する予定の青年との交流にも積極的に取り組んでいる。


 私はもう過去は振り返らない。

 負の形では。

 良いことは覚えて血肉とし、悪いことは流してしまう――そうやって心のバランスを取りながら一歩ずつ進んでゆく。



◆終わり◆

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