泣いている女性を家へ連れ帰り励ましたのですが、翌朝彼女は消えていました。~恩返しは唐突に~
その夕暮れ、家からそう離れていない山道を歩いていると。
「あの……大丈夫ですか?」
砂利道に座り込んで泣いている女性がいて、どうしてかほぼ無意識のうちに声をかけてしまっていた。
小さな身体、美しい金の絹のような髪、可憐な目鼻立ち――愛らしい、少女のような女性だ。
「なぜ泣いているのですか?」
「……ぅ、ううっ」
泣きながらこちらを見て、けれども言葉を発せずにいる彼女。
きっと辛いことや悲しいことがあったのだろう。
こんな愛らしい女性を道に放置しているわけにはいかない、と思って。
「よければうちへ来ませんか?」
気づけば私は誘っていた。
こんなのまるで弱っているところに付け込む怪しい人みたいではないか――そう思い不安になったけれど、意外にも、彼女はこくんと頷いた。
「良かった! ではうちへ来てください! ええと、立てます?」
すると彼女はまたこくんと頷いた。
◆
道で遭遇し連れ帰った女性は、名をルミーといった。
彼女は私が淹れたハーブティーをちみちみ飲んでいる。
「あの……これ、美味しい、です……」
「そうですか? なら良かった!」
「お茶……これ、は……何という、ハーブティー、ですか……?」
「ああそれは近所の茶葉屋で日替わり人気商品として出ているブレンドノーマルですよ!」
「そ、そう……ですか……」
ルミーは大人しい人だった。
で、何があったのかというと、フールルという婚約者から終わりを告げられたそうだ。
裏で他の女性と深く付き合っていたルミーの婚約者は、ルミーにそのことについて言われると急に逆ギレして婚約の破棄を宣言したらしい。
「本当に、話をしたい、だけだったんです……怒らせる、気、なんて……ちっとも、なくて……ただ話を、聞いて、ほしかっただけで……」
婚約者の話をするたびルミーはその大きな瞳から涙の粒をこぼす。
その姿はあまりに可哀想で。
そんな彼女を見ていると、つい先ほどまで赤の他人だった私までも同じように悲しくなってくる。
「そうですよね、それは辛かったですね……」
「はい……」
その日ルミーは私の家に泊まることになった。
一応同居している両親にも良いかどうか聞いておいたが、良い返事を貰えた。
「おやすみなさい、ルミーさん」
「はい……おやすみ、なさい……」
思えば、誰かと隣り合って眠るのは久々だ。
◆
翌朝、私が目を覚ますと、ルミーはいなくなっていた。
どこか家の中の別のところへ行ったのかもと思い探してみたけれど見つからず――その後気づいた、枕もとに置き手紙が置かれていたことに。
『昨日は本当にありがとうございました、おかげで救われました。優しいお方、感謝します。私はもう大丈夫です、進めます。玄関にお礼の品を置いておきますね。 ルミー』
そんな手紙だった。
驚いて玄関へ行ってみると――。
「ええっ、何これ!」
そこには、大量の金塊とフルーツが置かれていた。
「どうしたの――って、えええ!!」
続いてそれを発見した母もかなり派手に驚いていた。
私とその家族は、金塊を売ることで、莫大な資産を築くことができた。
もう生活に困ることはない。
そしてこれはその後流れてきた噂によって知った話だが、フールルという男性は愛し合っていた女性が記憶喪失になってしまったそうで、記憶を失った女性から「馴れ馴れしくしないで、気持ち悪い」というようなことを数時間にわたって心なく言われ続けたために心が壊れてしまい――今は自宅に引きこもることしかできなくなっているそうだ。
ルミーは幸せになれただろうか?
いや、きっと、なれているはず。
彼女のことは詳しくは知らないけれど、悪そうな人ではなかった。容姿も中身も美しい人だった。
だからきっと幸せになれるはずだ。
◆終わり◆




