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残念な婚約者から婚約破棄されてしまいましたが、昔憧れていた魔法使いへの道を歩めることとなりました。

 子どもの頃に好んで読んでいた本には大抵魔法使いが出てきていた。

 なぜなら、私がそういう本が好きだったから。

 魔法使いが出てくるような物語、それを読むのはとても楽しくて――空想であってもそういう世界に浸っている時がどんな時よりも幸せだったのだ。


 けれども現実は厳しく、憧れなど無視で、私は一人の青年と婚約することになった。


 婚約相手はリュージュアという青年。

 良家の子息だそうだがわがままかつ自分中心なところが目立つ人だ。


「僕に相応しい女性となれるよう、日々己を磨きたまえよ!」


 初対面でそんなことを言われた時にはかなり驚いた。


 恥ずかしくないのか、と。


 彼はその時私のことをまだ何も知らない状態だった。初めて顔を合わせた日だったから。それこそ、知っているのは顔と名前だけに近い状態で。だというのに彼はそんなことを言ったのだ、まるで私の中身を深く知っているかのような言葉を。


 そして、呆れもした。


 こんな人と夫婦になるの?

 こんな人と生きてゆくの?


 リュージュア、彼と行く未来に幸福があるとはどうしても思えなかった。


 ――それから数ヶ月が過ぎて。


「悪いね、急に呼び出して」

「いえ……」

「何だ? その顔は。僕を見下しているのかい?」

「まさか。そんなこと絶対にありませんよ」

「ふん、ならいいが」


 少し間を空けて。


「君との婚約を破棄する、そう決めたのだよ」


 はっきりとした調子で言ってきた。


「え……」

「はは、驚いたか? だがこれは現実なのだよ。婚約は破棄する、そう言っているのだ」

「本気、なのですか」

「ははは、当たり前だろう! ま、信じられないし信じたくない、という気持ちも分からないではないがね。なんたって切り捨てられるのだからな、はっははは!」


 戸惑う私を見て彼はとても楽しそうだった。

 愉快そうに笑っていた。


 どうしてそんな風に……。


 とはいえ、リュージュアに縋りつく気もなかったので、ここは大人しく頷いておくことにした。


「そうですね、では、そういうことで。婚約破棄、受け入れます」


 落ち着いてそう返すと、彼は少しばかり意外さに衝撃を受けたような顔をしていたけれど。


「ははっ、ま、いい覚悟だね」


 平静を装ってそれだけ返してきた。


 この日をもって、私とリュージュアの関係は解消となる。


 だが、ちょうどそのタイミングで、私は一人のおばあさんのような容姿の魔法使いに才能を見抜かれ――彼女に弟子入りすることとなった。


 それから五年、みっちり彼女のもとで修業を受け、それによって才能を開花させた私は魔法使いとして新たなる人生を歩むこととなる。


 少々不思議な世界、でも、そこへ踏み込むことに迷いはなかった。


 なぜって、その時の私には何もなかったから。

 それに、魔法使いというものには本で馴染んでいたから。


 こうして私は魔法使いとして大成し、富を築き、国を護る聖女と呼ばれるようになり――かつての婚約破棄など気にもならないくらい素晴らしい道を歩めることとなった。


 ちなみにリュージュアはというと、あの後いろんな女性と顔合わせをしてみるもその残念な性格からほとんどの女性から即座に拒否されてしまい、やがて心が折れて死を選んだそうだ。



◆終わり◆

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