建国の女神の生まれ変わりとされ大事にされてきましたが、王妃一派からは嫌われているようです。
艶のある銀の髪に燃ゆるような紅の瞳――それを持って生まれた者は、例外なく、建国の女神の生まれ変わりとして敬愛を向けられ大切に扱われてきたという。
そして私もその一人だ。
確かに大切にはされてきた。
実家を離れ城で育てられた。
私が建国の女神の生まれ変わりだったから――。
でも城内では平民ながら城で暮らす私を良く思わない者もいた。
特に王妃の一派。
王妃をはじめ、その周りの人たちは、私という存在を受け入れられないようだった。
「あんな貧相な娘が言い伝えのためだけに城にいるなんてね」
「あり得ないわよねぇ」
「それにさ、ちょっと感じ悪くない? 威張ってるわよね」
「それそれぇ。威張ってるって感じ。ずっとここにいるから自分が偉いとでも思ってきているんじゃない?」
「馬鹿ね」
「もしかして、陛下の愛人なのかしら」
「愛人の子かもぉ」
王妃に近い侍女はいつも私の悪口を言った。
それもあることないこと。
いや、ないことの方が多いくらいだった。
そして王妃も。
「あなた、この城で暮らすならそのだっさい格好をどうにかしてちょうだい! 早くどうにかしなければ、いずれここから追い出すわよ!」
私への接し方は心ないものだった。
「夫は息子と結婚させるとか言っているけれど、息子は絶対にあげないから! 息子の結婚相手はわたしが決めるのよ!」
だが王妃の意見は無視され。
国王は私と長男カエインの婚約を決めた。
その時、王妃は、かなり荒れていたようだ。
息子を私のような人間に渡すのが悔しかったらしい。
――それから二ヶ月ほどが経ち。
「急に呼び出してすまないね」
「いえ」
その日は晴れていた。
爽やかな色をした空の日だった。
「実は、大切な話があるんだ」
「大切な……はい、何でしょうか」
彼は一度深呼吸し、続ける。
「君との婚約なのだけれど、破棄することになったから」
あぁ、やはり、上手くいかなかった――。
いや、分かってはいたのだ。彼と穏やかに結ばれることなどできないだろうと。反対派もいる、それで温かな結末を迎えられるはずもない。だから、こうなることだって、少しは予想していた。
ただ、それでも若干ショックだ。
私は希望を見つめようとしていた。
光ある未来を掴もうと。
でも叶わなかったと知ってしまった瞬間の――切なさ、虚しさ、そして胸の痛み。
「母から色々聞いたよ、君の悪い行いを」
「悪い……行い?」
「ああ。母に反抗的な態度を取ったり、侍女を虐めたり突き飛ばしたり、気に入らない使用人を勝手に解雇したりしたのだろう?」
心当たりがなさすぎて。
「そのようなことはしていません」
「いいよ嘘は。なんにせよ、もう心は決まっているからね。今さら何を言われても決意は変わらない」
カエインは母を信じきっている。ここで私が何を言っても無駄なのかもしれない。本当のことを言っても、説明しても、意味などないのかもしれない。この口から出る声など彼には届かないのだ、きっと。
「じゃ、さようなら。……あ、今日中に城から出ていってね」
それがカエインと交わした最後の言葉となった。
私は城から追い出される。
王妃の嘘を嘘と主張することさえ許されず。
私の人生は一度終わったかのようだった。
◆
あの後どうなったかというと――不幸が続いた後に国が滅んだ。
私が城を追い出された日から、王族に急死が相次ぐようになった。何人もが一斉に亡くなった日もあったくらいだ。国民も不自然がり気味悪く思うくらい、次々死亡した。
そして、王妃の両親も、移動中の事故で落命。
それによって王妃は正気を失い。
とても人々に見せられないような状態となったため、彼女は別荘へ送られ、表舞台から消えた。
以降、近隣国との関係が急激に悪化。
国民の不満を解消するため攻撃的な態度を取るようになったのが原因だろうか。
そして、やがて、国王は隣国への侵攻を決める。
しかしそれは失敗に終わった。どころか反撃されることになってしまって。失敗だけでは終わらず、複数の国から一斉に攻め込まれてしまい。王族は皆拘束されて処刑され、国は滅んだ。
ちなみに、別荘に隠れていた王妃も例外ではない。
むしろ彼女は特に酷かったようで。
敵国の兵に捕まり、拷問のような遊びを散々された後に殺められた、とのことである。
ちなみに私はというと、城から追い出された後に実の親と合流し、国の行く末が怪しくなってきた頃に家族で国外へ逃げた。
そして今、平和な国で快適に暮らせている。
家族三人でハーブ店を営んでいるが、忙しくも楽しく、日々生活できている。
◆終わり◆




