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紅茶を飲みつつ振り返る過去 ~あの婚約破棄は衝撃的かつ辛いものでしたがそのおかげで今があると思っています~

 私は今、夫が営む喫茶店にて、紅茶を飲んでいる。


「今日新しく入った種類の紅茶なんだけど、味、どうかな? 試してみてくれない?」

「ええ、飲んでみるわ」


 カップを近づければ鼻に抜ける良い香り。

 大人びた色気のある匂いだ。


「良い匂いね」

「うんうん」

「――味も、悪くないわね」

「なら良かった」

「でも、もう少しだけ薄くてもいいかも」

「そうかい?」

「飲む人の好みに合わせて……でもいいわね」


 夫ロークレインに私が出会ったのは生涯最大の傷心の日だった。


 かつて私にはロークレインではない男性の婚約者がいた。彼との関係は目立って悪い部分はなく、それなりにいつも仲良くできていた。だから思わなかったのだ、彼が裏でやらかしている、なんて。


 でもある時それが明らかになった。


 婚約者は裏で私には秘密で他の女性と関わっており、その関係は日に日に深まり、しまいには夫婦レベルにまで高まっていて――越えてはならない一線を越えてしまっていた。


 そして、女性に子が宿ったのだ。


 女性の親に「責任を取って結婚しろ!」と強く言われたロークレインはその女性と結婚することを決め、私との婚約を破棄することに決めて、あの絶望の日それを私へ告げたのだ。


 他の女性とそこまで深い関係になっていたことに驚いたし、気づけなかった自分を馬鹿だとも思った。


 婚約破棄は受け入れるしかなかったけれど。


 でもどうしても前は向けなかった。


「好みに合わせて、か」

「それは難しいかしら」

「いいや、そんなことはないし、参考にさせてもらうよ。ありがとう」


 そんな日の夜、雨の中外で座って泣いていると、たまたま仕事を終え帰宅する途中だったロークレインが心配して声をかけてくれて。


 それで私たちは知り合った。


 それから積極的に交流を重ねるようになっていった私と彼は次第に仲良くなり、やがて結ばれる。


 そして今に至っている。


「ところで、今、何か考え事してる?」

「えっ」

「別のこと」

「……どうして分かるの?」

「分かるよ、顔を見ていればね」

「そう……」

「何か悩みでも?」

「いいえ。ただ、少し、昔のことを思い出していたの。それだけよ」


 ロークレインとの関係は今でも良好だ。

 ただ私の思考はほぼすべて彼にばれてしまう。

 だからどうやっても隠し事はできない。


 もっとも、隠さなくてはならないようなことをする気はないが。


「そっか」

「ええ」

「もし何か困ったことがあったら言ってね? 協力できることならするから」

「ありがとう」


 ちなみに元婚約者の彼は結婚後も何度も不倫を重ねたために慰謝料をもぎ取られ子は没収され離婚されるということになってしまったらしい。


 でも、彼には救いなど必要ないのかもしれない。


 だって彼は反省しない。

 何度でも欲望のままに動く。

 なら罰だって必要だろう。



◆終わり◆

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