妹に婚約者を押し付けられましたが、まぁそれなりに楽しくやっています。
私の妹は気がきつい。
彼女、リリエナには、年上の婚約者がいる。だが、彼は穏やかかつ優しい人のため、いつも私の妹から強い物言いをされている。それでも怒らない彼のことを私は密かに尊敬しているが、さすがに気の毒だなぁと思うこともある。
「貴方みたいな人、だいっきらい!!」
リリエナは怒っていた。
婚約者からの贈り物が気に食わなかったらしい。
「ええ……ちょっと待って、落ち着いてよ……」
「婚約は破棄よ!!」
「うそぉ……」
「いいから、とっとと消えて! あぁそうだ、余り物のお姉さまとでもくっつけば? お姉さまとならぼんやりしている者同士でぴったりよ!」
なぜ私に話が!?
巻き込まないでほしいのだが……。
「じゃあね!」
そう吐き捨てて、リリエナは去っていた。
私はリリエナの婚約者と二人になってしまう。
非常に気まずい。
「あ……すみません、妹さんを怒らせてしまって……」
彼はこちらへ視線を向けると謝ってきた。
リリエナの姉である私が言うのは何だが、彼は悪くない。本来謝らなくてはならないのは、リリエナの家族であるこちらだ。非は理不尽な怒り方をしたリリエナ側にある。
「いえ、こちらこそ……妹があんな感じで、申し訳ないです」
「リリエナさんをいつも怒らせてしまって……しかも、お姉さんの前でまで……すみません」
その後私は本当にリリエナの婚約者だった彼を押し付けられることとなった。
私はまだ誰とも婚約していなかったので、彼と生きるというのも悪くはないとは思うのだが、彼はもともと妹の夫となるであろう人だったから……中途半端に知り合いだったからこその気まずさがある。
「そういうことです……よろしくお願いします。今度こそ迷惑をお掛けしないよう気をつけますので……」
「いえいえ、私もこんなですし……」
「そんなことを仰らないでください」
これからどうなってゆくのか分からないけれど。
彼と生きていくことになるなら、それはそれで良いのかもしれない。
リリエナから奪ったわけではない。
それが唯一の心理的な救いだ。
◆
私はリリエナに婚約破棄された彼と結婚し、数年が経った今も二人穏やかに暮らしている。
彼は温厚な人だ。
私が散々当たり散らして切り捨てたリリエナの姉と知っていても私を責めようとはしなかった。
おかげで今も関係は良好。
「貴女と結婚することになるとは思っていませんでしたが……」
「そうですね、私もです」
「でも、貴女と一緒に生きられることになって良かったです」
「……ありがとう、救われます」
私と彼の関係には強い刺激はない。
それでも穏やかな幸福は確かに存在している。
◆終わり◆




