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婚約破棄された帰り道、幼馴染みと再会することとなりました。~幼き日の夢が叶うとは思いませんでした~

「大人になったら結婚しようね!」

「うん!」


 それは、幼馴染みカインとの幼き日の約束。


 異性であっても仲良しだった私たち。

 将来を誓い合った。

 冗談混じりだったかもしれないけれど、それでも、お互い心を通わせることができていた。


「楽しみだね!」

「カインと一緒に生きたい!」

「わーい!」

「絶対楽しいよね!」


 年を重ねても、彼との楽しかった日々を忘れはしなかった。

 あの記憶は私にとってはいつまでもどこまでも愛おしいものだったのだ。



 ◆



 十八の夏、私は婚約者レグロスから心ない言葉を告げられる。


「リリエ・クロフ! お前との婚約は破棄とする!」


 レグロスと婚約したのは数ヶ月前。ある茶会にて、彼が私を気に入ったことから、そういう話になっていったのだ。そして私は彼と婚約しなくてはならないこととなった。


 幼馴染みカインのことは覚えていたけれど。

 叶わないものと思っていた。

 だから正直、絶対に嫌、とは思っていなかった。


 流れに従うように生きよう。

 それが幸福への道だ。


 そう信じ、道を歩いていた。


 でも彼は私を幸福へは導いてくれなかった。

 そして訪れた今日。

 私は彼に終わりを告げられてしまう。


「お前みたいな顔しか取り柄のないやつ、あり得ねぇな。やっぱ無理だわ。顔はいいのに性格はごみだろ、話にならねぇ」


 レグロスが好きだったのは私の顔だけだった。それも一時的なものでしかなく。彼の心はあっという間に私から離れてしまった。


 そして今、彼はもう私を良く思っていない。


 愛していない、なんてものではない。

 共に生きることさえ受け入れられない、というような心でいるようだ。


「そう、ですか……」

「ああ。だからさ、とっとと消えてくれ? いいか?」

「……はい」

「オッケー。じゃ、バイバイ!」

「……さようなら」


 私はレグロスの家を一人出ていく。

 もう戻ることのない場所。

 見たくないけれどどことなく切なさも感じる。


 その帰り道。


「っ……きゃ、ぁっ」


 大きな熊のような姿をした魔獣に襲われる。


 もう駄目だ――諦めかけた、刹那。


 閉じた瞼の向こう側が強く光る。

 青白い輝きに包まれる。


「大丈夫ですか!?」


 聞こえてくる若そうな男性の声。


 恐る恐るゆっくり瞼を開く。

 すると目の前には一人の男性がいたのだけれど――まさかの展開、見覚えのある顔だった。


「カイン!?」

「リリエ!?」


 その青年は幼馴染みカインだった。


「と、とにかく、魔獣倒すから待ってて!」

「あ……は、はい……あ、いや、うん」


 その後魔獣はカインが片づけてくれた。

 いつの間にか魔法使いになっていた彼は想像しないくらい強くなっていた。


「カインが魔法を使えるようになっているなんて……びっくりしたわ」

「あはは」


 危機を脱してから、私はカインと言葉を交わす。


 私は彼に促されて石の上に座る。

 彼は近くの地面に腰を下ろした。


「いつから魔法なんて使えるようになったの?」

「弟子入りして!」

「そう……凄いわね、カイン。やるじゃない」


 彼と話すのは楽しい。

 時が経ってもそこだけは変わらない。


「リリエは元気にしてた?」

「ええ。でも……」

「大丈夫? 何かあったの?」

「ううん」

「隠さないでよ」

「……楽しい話じゃないけど」

「いいよ」


 私は彼に話すことにした。

 婚約破棄されたことについて。


「――そっか、それは大変だったね」


 彼は最後まで話をきちんと聞いてくれた。


 聞いてもらえるだけでも嬉しかった。

 なぜだろう、聞いてもらえているだけで救われているような気がした。


「ええ」

「ちょっと心ないね、その人」

「ええ……」

「で、その帰り道だったんだ?」

「そうよ」

「魔獣に襲われるなんて不運だね、危なかったね」

「驚いたわ」

「助けられて良かった。本当に」



 ◆



 数ヶ月後、私とカインは結婚した。


 共に生きてゆく決意を胸に。


「結婚できて良かったわね」

「あはは、本当にね!」

「嘘みたい……」

「これからよろしくお願いします!」


 ちなみにレグロスはというと、婚約破棄うんぬんのあの日の晩に熊に似た魔獣に家に入ってこられたうえ食べられ、その場で亡くなってしまったそうだ。



◆終わり◆

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